(C)2010 Mandarin Films Limited. All Rights Reserved
みなさんこんにちは! 管理人のJing-Fuです。
今回鑑定をするのは『イップ・マン 葉問』です。
最新作『イップ・マン 完結』の劇場公開を控える中、改めてシリーズ作を振り返って鑑定をしてみたいと思います。
目次
■作品情報
・基本情報
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■原題:葉問2/Ip Man2
■発掘国/制作年:香港(2010)
■キャッチコピー
・監督、キャスト
■監督:ウィルソン・イップ
■主要キャスト
イップ・マン:ドニー・イェン
ホン:サモ・ハン・キンポー
レオン:ホアン・シャオミン
ウィンシン:リン・ホン
ツイスター:ダーレン・シャラヴィ
ポー刑事:ケント・チェン
カム・サンチャウ:ルイス・ファン
チョウ:サイモン・ヤム
・あらすじ
前作のラストで日本軍の魔の手から逃れたイップ・マン(ドニー・イェン)は、妻のウィンシン(リン・ホン)と息子のチュン(李澤)とともにイギリス領の香港で、貧しくも幸せに暮らしていた。
妊娠中のウィンシンを気遣う生活の中で、イップ・マンは生計を立てるために知り合いのつてを借りて建物の屋上を借り、詠春拳の武館を開くことにする。
最初はなかなか弟子が集まらなかったが、ある日イップ・マンに挑んでその強さに惚れた若者のレオン(ホアンシャオミン)が弟子入りしたことを境に、徐々に門下生が増えていった。
後日、レオンが街中で洪拳の門下生と喧嘩を起こして拉致されてしまう。
呼び出されたイップ・マンはレオンの捕まっている魚市場へ出向き、そこで働いている門下生たちからレオンを救出する。
そこに魚市場の責任者であり、洪拳の師匠であるホン(サモ・ハン・キンポー)が現れ、イップ・マンは香港で武館を開くための掟の存在を知ることになるのだが・・・。
■ざくっと感想
本作の鑑定結果は、、、
ドニー・イェンの代表作ともなった『イップ・マン 序章』に続くシリーズ第2弾。
1949年のイギリス領時代の香港を舞台に、香港内でカンフーの各流派が掲げる掟、中国人を不当に扱う白人たちを相手に、イップ・マンの詠春拳が再び火を吹きます。
同じ中国人同士の流派の違いによる争いと歩み寄り、そして同じ思いで彼らを虐げる凶悪な白人たちに立ち向かい、さらに弟子を正しく導こうとするイップ・マンの新たなストーリーに注目です。
ウィンシン役のリン・ホンはもちろん、カム役のルイス・ファン、チョウ役のサイモン・ヤムらのキャストが続投していて世界観を継続していることも嬉しい。
前作ではアクション監督であった、香港映画界の超・大御所であるサモ・ハン・キンポーがキャストとして参加し、年齢を感じさせない迫力のあるカンフーアクションを魅せるのが、ファンにとってはたまらないポイントです。
夢の実現、ドニーさんVSサモ・ハンの対戦カードは興奮必至。
ドニーさんが見せる、カンフーの各流派とボクシングに挑む詠春拳のカンフーアクションは、前作以上に洗練された美しさとカッコよさを帯びています。
もちろんイップ・マンが家族、弟子や師匠たちと織りなすドラマの上質さも健在です。
前作『イップ・マン 序章』も鑑定をしていますので、よければ合わせてどうぞ☆
以下、ネタバレありの感想と考察になります。
作品を未見の方は鑑賞後の閲覧をおすすめします!
■感想と考察
・さらに磨きのかかった詠春拳アクション
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前作の時点で、ドニーさんが魅せるスタイリッシュな詠春拳のムーブメントに心を鷲掴みにされた人は多いはず。
本作でもその卓越したカンフーアクションは健在で、いや、むしろさらに磨きがかかっていて期待を全く裏切りません。
作品開始の間もない時間で、挑戦を挑んでくるレオンに対して詠春拳の技術をふんだんに見せつけ、理にかなった動きでいきなり観客をも圧倒してしまうデモンストレーションはサービス満点。
香港の武術界で武館を開くために各流派の師匠から小手調べを挑まれるシーンでは、猴拳、八卦掌、洪拳といったそれぞれで動きと攻め方の異なるカンフーと詠春拳の、異種カンフー戦が見ものとなります。
それぞれの流派ごとの特徴を押さえカンフーの扱い方を見ているだけでも興味深いものですが、それにイップ・マンがどのような詠春拳の立ち回りを見せるのかが呼び物で、ここでも無類の強さを発揮するイップ・マンの姿には圧倒されます。
また「落下したら負け」という条件付きのもと、狭い円卓という不安定な足場での闘いは視覚的にも興奮を煽ります。
ここでは猴拳のロー師匠役に『五毒拳』や『南少林寺VS北少林寺』のロー・マン、八卦掌のチェン師匠に『ヒーロー・オブ・クンフー 裸足の洪家拳』や『ワンス・アポン・ア・タイム 英雄少林拳』のフォン・ハックオンなど、ショウブラザーズの時代から非常に多くのカンフー映画に出演してきたオールディな俳優が起用されており、彼らへのリスペクトと往年のファンへのサービスも込められています。
フォン・ハックオンは『ポリスストーリー 香港国際警察』や『ヤング・マスター 師弟出馬』など数多くのジャッキー映画で悪役として顔を見せているので、ご存じの方も多いはず。
締めに用意されている、最大の宿敵であるイギリス人ボクサーのツイスターとのバトルでは、イップ・マンの詠春拳カンフーVSボクシングの異種格闘技戦が実現。
おそらくはイップ・マンが人生で初めて異国の格闘技であるボクシングに挑む機会であり、未知の相手を前に様子を探る暗中模索の不穏さと、相手の隙と弱点を突いて一気に押していく一筋の光明的な攻めが織り合わされる素晴らしい格闘アクションシーンとなっています。
詠春拳の必殺技チェーンパンチを繰り出すシーンもあるのですが、その力強いマシンガンのような高速連打の気迫は前作以上で、思わず自分の腕もうずき出しそうなほど。
それでもツイスターは物凄くタフなキャラクターであり、イップ・マンのいかなる攻撃にも耐え抜く立ち回りは、厄介さでいえば前作の三浦閣下以上。
腕一本でイップ・マンを振り回してしまうというちょっとしたアクションシーンに、「イップ・マンに対していかにツイスターが大きくて強靭な相手であるか」という表現が込められているのが上手いですね。
単に手先での攻防だけでなく、死角からの蹴り技や背負い投げから繋げるカウンターラッシュなど多角的なアクションもあり、画的に派手な迫力もバッチリです。
前作でははたきを使った攻撃や長く扱いづらい棒術といった武器の使用も見せていたドニーさんですが、本作では新たに、決して相手を斬らない鉈の二刀流や、木パレットで攻防一体のジャッキーばりにトリッキーな動きを見せたりと、素手以外でも新たなカンフーアクションを披露してくれます。
・サモ・ハンの風格
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『燃えよデブゴン』こと、カンフー映画界のレジェンドであるサモ・ハンが重要な役どころで出演をしているのが感激すぎます。
彼の素性について簡単に説明をすると、あのジャッキー・チェンの先輩であり(『プロジェクトA』や『スパルタンX』などに出演している、動けるデブ)、古くはブルース・リーとも親交があった、それはそれは偉大なお方です。
俳優活動だけでなく、監督や武術指導などでも香港映画の黄金期を支えてきたその名実ともに、香港映画界では誰も足を向けて寝ることができないようなトップの映画人です。
そんな彼は、ドニーさんとは2005年の『SPL 狼よ静かに死ね』ですでに共演済みであり、MMAを基調とした新感覚の現代格闘アクションには度肝を抜かれた思い出があります。
『SPL 狼よ静かに死ね』での共演・対決が最後だと思っていた中、二度と実現がしないはずのドニーさんVSサモ・ハンの対戦カードが実現したことは、それだけでカンフー映画ファンにとっては垂涎ものです。
しかも『SPL 狼よ静かに死ね』での現代劇でのアクションとは異なる、往年のカンフーアクションでの闘いがこれまた嬉しい。
サモ・ハンが演じるホン師匠の扱う洪拳は、もともとは波に揺られる不安定な船上での闘いのために考案された、足腰をどっしり構えて攻撃を出すカンフーです。
イップ・マンの詠春拳が柔とするのであれば、ホンの洪拳は剛。
新旧のアクションスターによるカンフーの激突は、不安定な円卓がステージということもあり、凄まじい熱を帯びていました・・・。
サモ・ハン、未だに動けるデブは健在のようで、撮影当時は還暦前ですが、素早いカンフーの殺陣だけではなくワイヤーを使用したダイナミックな蹴り技などを、あのおデブな体形を維持しつつこなしているのだから頭が下がる。
VSドニーさんだけではなく、ダーレン・シャラヴィ演じる悪のイギリス人ボクサー ツイスターとの格闘シーンも見逃せません。
ここではカンフーVSボクシングという異種格闘技戦を観るだけでも十分な迫力なのですが、サモ・ハンがしっかりと「受け」の演技をしていることに感動します。
ダーレンの重そうなパンチを実際に受け、頬の肉を震わせながら突っ伏したり後方にぶっ飛んだりと、受けの見せ方に抜かりがありません。
やられ方や倒れ方のリアクションに説得力があるからこそ、相手の強さがより際立つ。
受けの演技とモーションができるアクション俳優というのは実は少なく、サモ・ハンが流石はこの道のプロであることを改めて実感できる演出でした。
彼が演じるホン師匠が登場するシーンでは、ゆっくり厳格な顔つきでとイップ・マンの前に向かってくるその風格、まさに威厳を持つ師匠として板についていますね~。
・死闘、イップ・マンVSツイスター
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中国武術並びに中国人そのものを虐げ、はやし立てるツイスターは本当に憎らしい悪党でした。
ツイスターもそうですが、本作に主要キャラとして登場する白人はいずれも下劣な悪の存在として描かれています。
前作で中国人を見下しながらも、武人としてイップ・マンを敬う顔も見せた三浦閣下のようなクッションキャラは存在せず、警察内の腐敗も描かれており、本作の白人たちは嫌らしさに徹底していて実に腹が立つ (怒)
向こうでは、反日感情よりも反英感情の方が強いんでしょうか。
中国武術への侮辱に対する怒りの信念を砕かれ、逆にツイスターに試合場で殺害されてしまったホン師匠が遂げられなかった想いと、香港中の人々の期待を背負ってツイスターに挑むイップ・マンのラストバトルは、まさに死闘と呼ぶにふさわしい、シリーズの中でも突出した見所です。
単に2人の対決がアクション的に見栄えがあるだけではなく、アクションの中に組み込まれたドラマもかなり感慨深くて、考察するべきポイントがいくつもあることにも注目していただきたいです。
試合の数日前から家族とも離れて自己の鍛錬に集中するイップ・マンのストイックさ。
試合中に同胞たちから注げられる期待、白人たちから向けられる軽蔑の眼差しという重圧に耐えながら、弟子からの言葉にも反応を薄く、目の前の敵だけに意識を向ける極限の集中力。
イップ・マンというキャラクターの武術家の気魂というか、スポーツマンの精神にも近い彼の内側の強さがにじみ出ていて、ますますイップ・マンという人間に心を惹かれてしまいます。
公正な試合をすると言っておいて、イップ・マンが押されているときはゴングを鳴らさない審判、ゴングが鳴った後に痛恨の一撃を加えるツイスター、ツイスターの負けを危惧してイップ・マンの蹴り技を一切禁止とする審査員たちなど、ここでも白人たちの狡猾さが目立つ。
どんどん白人に有利になっていく試合の中で、KO寸前になるイップ・マンが友であるホンへの想いと強い精神力で踏みとどまる姿には、思わず目頭が熱くなります。
イップ・マンがツイスターへの迎撃にホンの勇姿を重ね、彼が実践することができなかった技でツイスターに勝利をし、香港中の人々が一斉に歓声を上げるシーンは非常に壮大で感動的です。
白人が徹底された悪役として描かれていることも後押しとなっていて、前作でも描かれていた中国人の英雄像並びに国民性がぐっと強まっていることも見受けられるシーンとなっています。
ダウンしたツイスターに対してカウントをする審判に合わせて、観客たちもカウントを始めるのですが、中国人たちのカウントの方が若干フライングぎみであることからも、彼らの抑えきれない喜びの感情が伝わってきますね。
・『ロッキー4』を思い起こさせる演説
ツイスターとの死闘を制したイップ・マンは、武術の優劣を決めたわけではないという謙虚な心構えで白人たちに訴えかけます。
「人に身分の違いはあれど、その品格は同等のものであり、お互いが手を取ることができる世を望む」
イップ師匠、なんて感慨深いお言葉・・・。
彼が唱える言葉は、とても分かりやすくも現代社会にも通づる重い念が込められており、思わず聞き入ってしまいます。
一連の流れには既視感があったのですが、敵に友人をデモンストレーション試合で殺される→鍛錬をする→敵に囲まれた会場で試合をして勝利をする→平和を唱えて敵から賞賛される、これは『ロッキー4 炎の約束』と同様のプロットですね!
同作からストーリーの流れを汲みつつも、新たに独自の言葉で人種間への歩み寄りを訴えるメッセージはやはり示唆に富んでおり、娯楽作品としてアメリカとロシアの溝を埋めんとした『ロッキー4 炎の約束』へのオマージュ並びにリスペクトを感じました。
イップ・マンの演説に対して拍手を上げる白人たちですが、ツイスターのスポンサー(?)はただ一人、その光景を見て呆れながら会場を後にしてしまいます。
賛同できない人間がいる様子を意図的に映し出していることは、人種間の問題が現代社会にて今なお根強く残っていることを暗喩していて、解決への道がまだ遠い人類の課題であるとして、華やかなシーンながらも何だか悲しくなってしまいました。
・上質的なバックストーリーは続く
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前作でも物語全体での上質なストーリーが評価されていましたが、本作でもアクションとは関係ない部分の暖かいドラマは継続されています。
前作で「弟子はとらない」と言っていたイップ・マンが、生活のためとは言え、武館を開いてちゃんとした形で弟子を取るのですが、真面目で弟子思いな師匠像はキャラの広がりが見えていて面白いです。
血気盛んで技ばかりに固執する弟子に中国武術とは何たるかを説明し、正しい方向へと導こうとする姿勢には感銘を受けました。
価値観の違いで手合わせまで衝突してしまうイップ・マンとホンの確執。
白人への妥協のために築いた香港武術会の掟について、2人が明確に和解をした様子は残念ながら描かれません。
でもなんだかんだで、同じ中国人として2人は歩み寄って距離を近づけるんですよね。
きっとイップ・マンが手合わせよりも家族を重んじた言動を見せたことにより、ホンがイップ・マンの人間性を理解したんでしょうね。
家族を重んじるという点では、イップ家の団らんシーンでは前作よりもぬくもりのあるひとときが表れています。
新たに妊娠をしたウィンシンを注意深くいたわるイップ・マンは、まさに紳士的で理想の夫像!
そんな夫を見つめるウィンシンの表情も柔らかく、前作から続く苦境を乗り越えようとより強い関係を築き、互いの理解にいそしむ様子が健気です。
本作でも何気なく家族の食事シーンが用意されているのですが、こうやって家族の想いややり取りを自然に出させるシーンとして食事を挿入するウィルソン・イップ監督の演出、たまらなく好きです。
ツイスターとの試合を経て、やりたいことを聞かれたイップ・マンが笑顔でこぼした「うちに帰りたい」という一言が、短くも彼の家族に対する愛を全て物語っていてほっこりしますね。
ラストのラストに、少年時代のブルース・リーが登場して、いかにもな仕草と喋り方で詠春拳の門を叩く様子は茶目っ気たっぷりというか、少々オーバーというか、いずれにしてもカンフー映画ファンであればドキッとするはず。
・実は名優、ケント・チェン
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ジェット・リーの『ターゲット・ブルー』やジャッキー・チェンの『新ポリスストーリー』などといった名作だけではなく、『実録!幼女丸焼き事件』といったゲテモノ映画にも出演経験があってフィルモグラフィの動きが激しい俳優のケント・チェンが、ポー刑事役で出演しています。
ドニーさんとも『導火線 FLASH POINT』にて共演済み。
サモ・ハンと並ぶようなずんぐり体形と強面な表情が怖いですが、実はシリアスからコメディまで幅広い演技ができる俳優なんです。
白人とホンの仲介を担い、悩むホンに優しく寄り添うポー刑事を、いぶし銀溢れる人情で演じています。
それぞれアクションと演技のおデブおじさん、サモ・ハンとケント・チェンが並んでいるシーンは妙に和むんですよね。
終始仏頂面な彼ですが、その分、イップ・マンがツイスターに勝利したときに見せる笑顔とガッツポーズがとびきり印象に残っています。
■日本がらみ
前作のラストでイップ・マン一家を助けた、サイモン・ヤム演じるチョウ。
イップ・マンを助けたことが仇となったのかは不明ですが直後に日本兵に頭部を撃ち抜かれ、死にはしなかったものの、障害が残って人間としておかしくなってしまった悲しい事実が劇中で語られます。
チョウの風貌があまりにも惨めな姿に変わっているので、感情移入している身としてはこちらもかなりショックが大きいです。
日本人の悪い印象が引きずられてて複雑です・・・。
■鑑定結果
新旧のアクションスターが魅せる珠玉のカンフーアクションの迫力は、もともとアクション水準の高いシリーズの中でもトップレベルに値します。
イップ・マンが香港武術界と白人社会、つまり内と外で衝突し、そして双方の歩み寄りを図ろうとする現実味を帯びたメッセージ性
アクションとテーマ、そしてストーリー。
すべてにおいて文句の言いようがない、素晴らしいクオリティの映画です。
となります!!
前作『イップ・マン 序章』も鑑定をしていますので、よければ合わせてどうぞ☆
それでは今回の鑑定はここまで。
またお会いしましょう!
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