【ネタバレ/感想/考察】『新感染 ファイナル・エクスプレス』の鑑定【ホームレスとアロハ・オエの意味とは】

ホラー
(C)2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved.

 

Jing-Fu
Jing-Fu

みなさんこんにちは! 管理人のJing-Fuです。

 

今回鑑定をするのは『新感染 ファイナル・エクスプレス』です。

韓国産のゾンビブームの火付け役となった本作は、公開されるや否や世界中で大注目をされるほどの大傑作でしたね。

管理人も本作を生涯ベスト10内にランクインさせるほどのお気に入り作品です。

2021年1/1より本作の続編である『新感染半島 ファイナル・ステージ』が日本でも公開中ということで、復習として本作を観直しました。

それでは早速鑑定していきましょう!

■作品情報

・基本情報

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■原題:부산행/Train to Busan

■発掘国/制作年:韓国(2016)

■キャッチコピー

何があっても、守り抜け!

 

・監督、キャスト

■監督:ヨン・サンホ

 

■主要キャスト

ソグ:コン・ユ

スアン:キム・スアン

ソンギョン:チョン・ユミ

サンファ:マ・ドンソク

ミン:チェ・ウシク

ジニ:アン・ソヒ

ホームレス:チェ・グイファ

ヨンソク:キム・ウィソン

・あらすじ

ファンドマネージャーとして投資信託事業に務めるソグ(コン・ユ)は妻とは別居中の状態で、現在は実母と娘のスアン(キム・スアン)の3人で暮らしているが、家族よりも仕事を優先するソグとスアンの間には溝が生まれてしまっていた。ある日釜山にいる母を訪ねたいというスアンのお願いをやむなく聞き入れ、翌日の明朝、ソグはソウル発釜山行きのKTX101号列車に乗車するためにスアンを乗せて車を走らせていた。道中で高層ビルが火事になり、消防車やパトカーが慌ただしく走っていることに驚く2人だったが、予定通り駅に到着してKTXへと乗り込む。KTXの発射直後、駅構内が騒がしくなっていることに気づいていない2人だったが、スアンは車窓から1人の駅員が何者かに襲われていたのを目にしていた。その一方でKTXの発射直前に別車両へ乗り込んだ女性(シム・ウンギョン)は、足に謎の傷を負いながらただならぬ様子で社内を徘徊し出すのだが・・・。

■ざくっと感想

Jing-Fu
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本作の鑑定結果は、、、

鑑定結果オリハルコン映画(☆10)!!

超高速で走り続ける列車を舞台に、突如として勃発したゾンビ・パンデミックによる脅威を描いた、韓国発の本格派ゾンビ・アクション作品です。配給会社のツインが『新感染』とかいうトチ狂った邦題を付けているが、これは劇中で登場する韓国の高速鉄道KTXを日本の「新幹線」と見立てて「感染」の言葉を掛けているだけであり、原題の「プサン行き」とは何の関係もない(ちなみにツインは能無し邦題考案の常習犯である)。

中々クセのある邦題に公開前から賛否両論が相次いだ本作だが、本国公開時に国内で1100万人という記録的な観客動員を実現させたと聞けば、作品としての完成度に抜かりがないことは言うまでもないだろう。いつも通りの平穏な日常が崩れていく終末感、急速に広がっていくゾンビ・パンデミック、阿鼻叫喚の血みどろ地獄絵図、ゾンビとは異なる恐怖を見せる極限状態での人間関係ドラマなどゾンビ映画としてのお約束はしっかり網羅。そしてそれらが描かれる舞台を1編成の高速で走る列車内にほぼ絞ることにより、パニック劇に尋常ではない閉鎖感によるスリルをもたらしている。疾走感溢れる十死一生のアクション、誰が死に誰が生き残るか分からない緊迫のサバイバル劇、無駄のない演出、何をとっても究極に面白く、単なるゾンビ映画として捉えるのがもったいない傑作です。ちなみに「血みどろ」と書いたが、いたずらにグチャグチャグロテスクを追求する様子はなく比較的にマイルド表現なので、普段この手のジャンルを敬遠するような人も手に取りやすい親切仕様なのも優しい。

『コーヒープリンス1号店』『トガニ 幼き瞳の告発』などのコン・ユ『82年生まれ キム・ジヨン』などのチョン・ユミなど韓国を代表する名優たちが鬼気迫る演技を熱演している中で、ゾンビ相手に自慢の鉄拳を叩き込むサンファ役のマ・ドンソクに注目したい。周囲を抑え込むインパクトが脚光を浴び、それまで決して高いとは言えなかった知名度と人気に火が付いたのはもちろん、本作の国際的大成功によってハリウッド進出への足掛かりをつかんだことも今考えると感慨深い。男女問わず、彼の魅力に堕ちるマ・ドンソク沼の要素を持っているので、観終わった後はマ・ドンソクに感染しないように要注意だ。

 

以下、ネタバレありの感想と考察になります。

作品を未見の方は鑑賞後の閲覧をおすすめします!


 

 

 

 

 

 

 

 

■感想

・スピーディなアクションを引き立てる相乗効果

逃げ場のない列車内という、スリル満点のステージで爆発するゾンビ・パニック!

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いつも通りに仕事をこなし、家に帰りつく主人公のソグ。嵐の前の静けさのごとく、早朝の閑散とした列車内が一蹴にして血祭りのゾンビ地獄へと変貌するカオスな光景。さりげなく不穏な空気を醸し出しながら、何事もなかったそれまでの日常が急に崩壊するコントラストの変化が上手く、いざゾンビパンデミックが発生してからはエンジンフルスロットルのサバイバル劇が展開します。常に走り続ける脱出不可能の列車内で繰り広げられるゾンビと生存者の死闘、狭くて自由の効かない列車内での閉鎖的なゾクゾク感、トイレや天井の荷物置き場など列車内の構造をフルに活かしたアクションとサスペンス。猪突猛進をしてくるゾンビと高速で疾走する列車、「速さ」の相乗効果か、全体的なアクションのスピーディ演出はかなり高め。まるで最初から最後まで映画のラストシーンを観ているかのように、常に手に汗握るアドレナリン放出を体感することができました。

ゾンビ映画の掟を破った『28日後・・・』よろしく、本作に登場するゾンビたちは全力疾走と跳躍能力に長けていてその動きは物凄くアグレッシブ。あまりにも多すぎるゾンビたちが互いにぶつかりながら走り続け、勢い余って東宝のロゴのバックでしぶきを立てる波のようにドバーって盛り上がるのが衝撃的だった。他にも走る列車に一匹のゾンビがしがみつき、そのゾンビに後ろのゾンビたちが数珠繋ぎに連なっていって、1匹の生物のようになって列車のスピードを緩めようとコーププレイを見せるなど、とにかく画的なインパクトで攻める攻める。また本作独特の試みとしてゾンビには「暗闇では視覚を失う」という習性が設定されており、主人公たちがこれを利用して列車がトンネルに入る度に駒を進めるというサスペンスの盛り上げ方が面白かった。

・ゾンビが明らかにさせる、人間たちの内面

登場人物それぞれが見せる大切な人との物語は、韓国映画らしく非常にドラマチック。

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ゾンビに囲まれた世界の中、極限状態に陥った人間たちがどのような行動に出るのか。そんな人間の内側に迫るドラマが描かれるのはゾンビ映画の常だが、本作もそこんとこは抜かりはない。いや、むしろそのドラマこそが本作の評価点であると言っても過言ではないほど、登場人物たちの心理と行動に丹念にスポットを当てたストーリーは超リアル。ある者は他人を視界に入れることなく身内だけの配慮しかせず、ある者は危機的状況の中他人の手を取る優しさを見せ、またある者は自分が助かるために平気で他人を蹴落とし、そして何も信じることができず思いやりを失う人々もいる。人間なのだから、意見や行動が十人十色なのは当然なことだ。彼らの小さな行動が未来に大きな影響を及ぼし、それぞれの際どい運命の交差を描いているのが深い。家族ドラマ、恋人とのドラマ、他人とのドラマ。各キャラクターたちの掘り下げが丁寧なので、2時間という短時間(映画としては長い方の部類だけど)の中で各々の存在感がズッシリと重く、感情移入も激しめ。だからこそ悲しい末路を辿るキャラクターの最期には、必然的に涙腺が緩くなってしまった。

Jing-Fu
Jing-Fu

ゾンビ映画でここまでハンカチを濡らすとは思ってなかったもんな~。

 

この中で最も生々しい立ち位置にいるのが、バス会社の常務のヨンソクである。このおっさんを一言で表現すれば「自己中」。他人が困っていようと知ったこっちゃない。とにかく自分が助かることしか考えず、自分の状況が危うい時には隣にいる人間を何の躊躇もなく身代わりにするような最低なヤローだ。こいつのせいで死ななくてもよかった人間がめちゃめちゃ死ぬことになるので観ていてただただイライラが募り、そのうざったい顔面にローリングソバットを放ちたい衝動に駆られる。恐らく本作を観ている大多数の人がヨンソクに嫌悪感を抱くことになるだろうが、彼もまた人間であり、それは誰でもヨンソクになる可能性があるということを意味している。いくら彼の行動を非人道的だと非難しようが、結局人間が一番かわいいのは自分なのである。仮に自分が本作のような極限下に置かれた時に、自分がヨンソクにならないと保証できると言い切れますか?

Jing-Fu
Jing-Fu

ヨンソクは人間誰もが持ち合わせている恐ろしい一面を具現化した、単に悪人と呼ぶのは難しい存在なんですよね・・・。

・マ・ドンソク感染注意報

見よ、この画面を占領する重圧感と頼もしさを!!

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多くの登場人物の中でも一番キャラが立っているのが、マ・ドンソクことマブリーが演じるサンファだ。劇場公開当時にまだ管理人は韓国映画の知識に乏しい部分もあってマブリーのことを1ミリも知らなかっただけに、そのあまりにも強すぎるインパクトに圧倒されてしまった。何が凄いって、まずその見た目。絶対に怒らせてはいけないと肌で感じる凄みのあるオーラ。ゾンビの群れを突破するために本気を出し、上着を脱いで露わになる筋肉ではちきれそうになったTシャツ上半身。見た目だけで第一印象がすべて決まる俳優に出会ったのは久しぶりだった

インパクトの強さは見た目だけに留まらず、アクションシーンにも顕著に出ている。だって狂暴なゾンビと対峙したら普通、みんな武器を手に取って応戦するはずじゃん? 噛まれたら危ないしね。なのにマブリーときたら武器を用意するわけでもなく自分の腕をテープでグルグル巻きにして補強するだけで、あとは自ら率先してゾンビを素手でボコりに行くんだぜ? 何このシンプルながらも前代未聞の攻撃方法。反則だ、ワイルドすぎる 笑 あの丸太のような腕から繰り出されるパンチの迫力はすさまじく、群れを成すゾンビをぶん殴り、投げ飛ばし、パワータイプの技でねじ伏せるマブリーに、ゾンビと共に画面外の観客がノックアウトされてしまうのがたまらない。

とっつきにくい強面の中に潜む愛嬌、空気を読まないプチ横暴な言葉遣いなど、サンファの人物像にもマブリーの持ち味が見事にマッチしてて、その漢気溢れる演技力にも目を惹かれます。

Jing-Fu
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本作でのインパクトと活躍がきっかけとなり、後にハリウッドのマーベル作品『エターナルズ』の主要メンバー抜擢に繋がるのも頷ける技量ですね。楽しみ!

余談ですけど、この世に溢れるゾンビ映画のほとんどにおいて、ゾンビへの対抗手段は銃か手持ちの武器、その他マシーンなどにとどまっている。本格的な格闘術でゾンビを制圧する映画をほぼ目にすることはない状況だ。『バイオハザード』ミラ・ジョボヴィッチがそれを披露してたけど、あれは原作ゲームのイメージを大きく逸脱してしまった演出なのであまり評価はできない。その点、本作オリジナルの見せ方としてマブリーがゾンビ相手に拳を振るう姿はかなり斬新に映ったし、ゾンビ映画において新たな可能性を生み落としたとも言える。これを機に、本格的なアクション俳優がマーシャルアーツでゾンビを蹴散らす映画というのも誰か作りませんか?

■考察

・何故ホームレスがいるのか

本作で生存者主要メンバーの一人となるチェ・グイファ演じるホームレスは、本作の前日譚であるアニメ映画の『ソウル・ステーション/パンデミック』におけるソウル・ステーションからの生き残りらしく、命からがら逃げてきてKTXに乗り込んだようです。

このホームレスが『ソウル・ステーション/パンデミック』と本作を繋ぐという意味では特に明確な役割はなく、それであればなぜ主要人物の中にわざわざホームレスを入れるのを選んだのだろうか。実は『ソウル・ステーション/パンデミック』でも劇中に多くのホームレスが登場していて、彼らに対する偏見、彼らが現実の辛さを訴える嘆き、ホームレスの存在意義と世間の注目度についてを意味深に描いていました。本作でも浮浪者であるホームレスの彼は社会的には弱い立場に分類される存在であり、ヨンソクは彼にひどい差別発言を浴びせ、主人公のソグでさえも中盤まではどこか彼を見下したようなそぶりを見せている。しかも劇中でホームレスがピンチに陥った時に手を差し出したのはソンギョンだけであった。漢気溢れるサンファも含め、ホームレスが荷物置き場から降りる時には誰一人として彼に手を貸していないのが気になる。

中盤ではゾンビを突破してきたホームレスを含む主人公らに対し、他の生存者たちは「彼らは感染している!この車両から出ていけ!」と、確信があるわけでもないのにひどい言葉を浴びせます。これは普段一方的な差別や偏見を受けているホームレスの立場を主人公ら一般市民に置き換えていて、自分たちがいつも社会的弱者に対してどのような視線を向けているのかを、観客に受け身側から見せて初めて気づかせているのです。ソグは前半でホームレスに対して冷たい視線を送っていたこともあるだけに、この空間でモロにその悲痛さを実感していることでしょう。ホームレスという存在を主要メンバーに用意することにより、人間が社会的弱者に対して向ける差別&攻撃を送り手と受け手の目線から描くという、社会的な風刺を表現してるんだと思います。

・ソグの最期とアロハ・オエの意味

主人公のソグも、人道的観点から見ると負の側に立つ人間です。彼は他人を蹴落とすことはしないが、自分と娘のスアンが助かりさえすればいいと、同じ状況で苦しんでいる他人への思いやりが一切ない。自分のことしか考えない性格が私生活にも影響していることが劇中で語られていて、それが原因で妻とは別居、娘からの信頼も失っていることが判明する。そういった事実を初めて認識し、自身もサバイバルの中で弱者の立場を経験することにより、中盤以降は彼の心境に変化が現れ、スアンも含めて周囲の人々を思いやる素振りを見せるようになります。最後は自身が盾となってスアンとソンギョンを救い、彼はまさかまさかのゾンビ化を遂げてしまう。体はゾンビに侵食されながらも、ソグは笑顔を浮かべながら列車から身を投げるのです。心の中では初めて赤ん坊のスアンを抱いた時の温もりを思い出し、蘇った感動からニッコリと笑みを浮かべ、ゾンビとなりながらも人間として死んだ。その対比が儚くも美しく心に響く最期でした。ソグとスアン、極限状態に陥ったことによって歩み寄りが成立したのが皮肉ですが、その家族愛が成就しない悲しすぎる別れに胸が痛みます。

物語のラスト、スアンが泣きながら「アロハ・オエ」の歌を歌います。これには伏線があり、スアンは序盤、学校の学芸会でアロハ・オエを歌いますが、ソグが仕事で来れていないため、残念そうに途中で歌をやめてしまう。祖母が撮っていたビデオを見たソグは、「途中でやめずに最後まで歌わなきゃ」とスアンに伝えていました(歌が続かなかったのはソグの不在が原因なんですけどね)。スアンはトンネルの暗闇の中でアロハ・オエを歌い続けたことにより、軍隊からゾンビと間違われて誤射されることなく生還するのでした。

何故、スアンが歌う歌にアロハ・オエをチョイスしたのだろうか。一般的にアロハ・オエと聞けば、多くの人がのほほーんとした曲調を思い浮かべると思います。しかし実際にアロハ・オエは、ハワイ王国の終焉と恋人の別れを綴った、悲しい「別れ」を表現する歌なんです。つまり本作のアロハ・オエはスアンとソグの「別れ」を意味しています。ラストで父親のソグを失ったスアンが、亡き父に贈った別れの歌。結果的に父親からのアドバイス、父親への想いが彼女の命を救ったとなると、アロハ・オエは愛と哀しみの家族劇で構成していることになり、この上なく素晴らしい選曲だったことが分かりました。

■日本がらみ

・ゲーム機

冒頭、ソグがスアンの誕生日プレゼントに選んだのは、ニンテンドーのゲーム機のWii。「スーパーマリオブラザーズWii」ソフトと本体の同封版らしいが、日本人が見慣れていた縦置き型ではなく、海外でのみ発売されていた「Wii Family Edition」という、本体を最初から横向きに置く廉価モデルらしい。本作の製作当時2016年にはすでにWiiの後継機である「Wii U」が発売されているはずであり、プレゼント既に下火以下となっていたWiiを選ぶのはセンスがねえ(Wii Uでもちょっと古いくらいだ) 笑

あと、スアンがKTX内で読んでいる雑誌の表紙には「Newニンテンドー3DS」の広告があるのが分かる。

■鑑定結果

Jing-Fu
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最後まで息を突かせぬ展開と巧妙なドラマ部分、そして社会風刺を混ぜ込んで現実問題を問う作風には文句のつけどころがありません。続編の『新感染半島 ファイナル・ステージ』がどのような展開を見せるのか楽しみですね。

鑑定結果:オリハルコン映画(☆10)

 

となります!!

 

続編の『新感染半島 ファイナル・ステージ』についても鑑定をしてますので、よければ併せてどうぞ☆

 

それでは今回の鑑定はここまで。

またお会いしましょう!

 

よろしければシェアをしていただけると幸いです!↓↓

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