(C)2015 Pegasus Motion Pictures (Hong Kong) Ltd. All Rights Reserved.
みなさんこんにちは! 管理人のJing-Fuです。
今回鑑定をするのは『イップ・マン 継承』です。
最新作『イップ・マン 完結』が昨日より日本公開されていて映画ファンが盛り上がっています。
管理人ももちろん観てきましたが、まずは最新作の前作にあたる本作を鑑定していきます。
目次
■作品情報
・基本情報
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■原題:葉問3/Ip Man 3
■発掘国/制作年:香港(2015)
■キャッチコピー
・監督、キャスト
■監督:ウィルソン・イップ
■主要キャスト
イップ・マン:ドニーイェン
ウィンシン:リン・ホン
チョン・ティンチ:マックス・チャン
マー:パトリック・タム
ポー刑事:ケント・チェン
ティン:レオン・カーヤン
ムエタイファイター:サラット・カランウィライ
フランキー:マイク・タイソン
ブルース・リー:チャン・クォックワン
・あらすじ
1959年の香港。
長男のチュンを勉学のために佛山へ送ったイップ・マン(ドニー・イェン)は、香港で他流派からも認められた詠春拳の武館を開きつつ、妻のウィンシン(リン・ホン)と次男のチン(ワン・シイ)と3人で暮らしていた。
ある日チンが学校でチョン・フォン(スイ・サン)と喧嘩をしたことにより、イップ・マンは彼の父親であるチョン・ティンチ(マックス・チャン)と出会うことになる。
チョン・ティンチはイップ・マンと同じく梁贊の孫弟子にあたる詠春拳の同門であり、詠春拳の武館を開くことを夢見て車夫として働き、また闇賭け試合で金を稼いでいた。
子供同士の和解を見届けた2人は円満に別れる。
一方、チンたちが通う学校の土地を、チョン・ティンチが参加する闇試合の経営者、アメリカ人の不動産開発者であるフランキー(マイク・タイソン)が狙っていた。
フランキーは子分のマー(パトリック・タム)を使い、土地を奪おうと強引な地上げ行為を目論む。
マーたちの度のすぎた暴力行為から学校と地域を守ろうと立ち上がるイップ・マンだったが・・・。
■ざくっと感想
本作の鑑定結果は、、、
『イップ・マン 序章』、『イップ・マン 葉問』に続く、ドニー・イェンの人気カンフー映画シリーズの第3作目。
前作までのアクション監督であったサモ・ハンに変わってユエン・ウーピンが起用されており、前作とは異なるドニーさんの詠春拳アクションの見せ方が興味深いです。
『ドラゴン×マッハ』の署長役で本格的な頭角を現し始めたマックス・チャンが出演し、ドニーさんとはまた異なる魅力を持つ詠春拳を披露する大役に抜擢。
ドニーさんとマックス・チャンの熾烈な詠春拳対決は、これまでになかった同門の戦いとして、カンフーアクションの歴史に残るような名シーンを創り上げました。
さらには世界ヘビー級王者の元プロボクサーであるマイク・タイソンが特別出演しており、ドニーさん相手にパワフルすぎる拳を見せつけています。
一方のドラマ面では、イップ・マンとその妻であるウィンシンへのフォーカスが強く、病を患った妻をいたわるイップ・マンの健気な優しさ、生活の一つ一つ幸せに噛みしめていく甘く切ない夫婦の時間が思わず涙を誘います。
シリーズの過去2作品も鑑定していますので、合わせてどうぞ☆
以下、ネタバレありの感想と考察になります。
作品を未見の方は鑑賞後の閲覧をおすすめします!
■感想と考察
・新たなアクション監督、ユエン・ウーピン
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ユエン・ウーピンといえば、『ドランク・モンキー 酔拳』でジャッキーと、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズでジェット・リーと組んだ経験を持ち、監督、アクション監督として両作品を大成功に導いた人物です。
武術指導のスキルは世界に認められ、『マトリックス』シリーズや『キル・ビル』シリーズなどにも呼ばれていることからも、彼の真の実力を伺うことができますね。
実はウーピンは、本作に出演するドニーさんとマックス・チャンを「スカウト」した張本人であり、彼がいなければどこの2人は映画界に進むことはなかったと考えれば、人材発掘に対する先見の明も優れていたんですね。
そのため、ドニーさんとマックス・チャンが本格的なカンフーを披露する本作のアクション監督への抜擢はまさに適役と言えます。
サモ・ハンに代わってウーピンがアクション監督を務めたことにより、当然作品のアクションシーンには、前2作までとは異なった演出が見て取れます。
あくまで過去の作品を観てきた管理人の個人的見解はこんな感じです。
・技の始まりから終わりまでをカッコよく強力に見せる意識
・巧みなカット割りとカメラワークを多用してアクションの迫力を増幅させる
・技の威力よりも一連の動作の美しさに重きを置く
・比較的カット割りが少なく、その場で起こっているアクションを長回しで映す
本作でも、登場人物がアクション中に空間をぐいぐいと動いていき、それを長回しでカメラが追っていくという演出が散見され、まさにウーピンらしいアクションの演出方法だと思います。
詠春拳の素早く美しい手さばきをより際立たせ、まるで芸術作品のように華麗に映し出すスタイルが、同じ詠春拳というカンフーを扱いながらも、サモ・ハン担当の前作とはまた異なるアクションの楽しみ方を堪能できるのが醍醐味です。
もちろんサモ・ハンの演出を否定しているわけではなく、それぞれ異なる持ち味があるのは当然のことで、アクションシーンへの考察も広がりますよね。
・サシの対戦カードが豪華!
ドニーさんVSチャン・クウォックワン
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前作のラストで登場したブルース・リーが青年になって再登場するのが嬉しいサプライズ。
もともとはフルCGのブルース・リーが登場すると話題になっていたのですが、ブルースの遺族(リンダ夫人ら)とひと悶着あったらしく、結局は『少林サッカー』のGK役でお馴染み、ブルースそっくりさん俳優のチャン・クウォックワンが演じることになりました。
いちいち細かい仕草までがブルース本人と似ていてニンマリ。
ドニーさんと本格的に闘うシーンがあるわけではありませんが、イップ・マンが弟子入りをせがんできたブルースに対して、タバコを投げて蹴り技を試すシーンがあります。
ここで面白いのが、イップ・マンがコップの水を蹴れなかったブルースに対して「悪くないが、水を蹴ることはできたか?」と問いただすこと。
ブルースが実際に哲学として掲げていた「水の理論」は、イップ・マンがヒントを与えていた、という遊び心が効いています。
ドニーさんVSサラット・カランウィライ
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地上げ活動を邪魔されたとして、フランキーがイップ・マンへの刺客として送り込むムエタイファイター(明確な役名なし)。
カンフーVSムエタイという、これまた格闘ファンがそそるような異種格闘技戦が実現します。
狭い閉鎖的なエレベーターの中で、イップ・マンがウィンシンを守りつつムエタイファイターと攻防を繰り広げる緊迫した格闘シーンから始まり、その後建物内の廊下と階段を下階に進みながら勃発する流動的な対決。
狭い通路を天井から見下ろして2人を追跡する視点が特徴で、前述のウーピンらしい長回しをトリッキーなカメラワークを見せていて面白いです。
膝や膝でのモーションの大きい強力なムエタイに対し、その隙を突いて的確に弱点を責める詠春拳の構図は、非常にスマートで詠春拳の動きがより一層美しく映えています。
ムエタイファイターを演じるサラット・カランウィライは、『バトルヒート』でトニー・ジャーのスタントマンを務めていたそう。
ですので、『トリプルX 再起動』で叶わなかったドニーさんVSトニー・ジャーが実質的に実現したようなものですね。
ドニーさんVSマイク・タイソン
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作品が公開される前から、ドニーさんとマイク・タイソンの共演と対決が強めに推されて宣伝されていた本作。
まるで本作のハイライトのような注目具合でしたが、実際はマイク・タイソン演じるフランキーは本作のラスボスではありません。
実際のラスボスはマックス・チャンですが、世界的知名度を考えればこの2人が推されるのも納得ですね。
この2人の対決シーンはとにかく「怖い」です。
何が怖いかって、それはマイク・タイソンの全てですよ・・・。
まずアクション中はタイソンが演技をしていません。
演技をする必要がないからです。
前作のツイスターもボクサーでしたが、あくまで作品上に彩られた演技だったのに対し、タイソンのボクシングは元世界ヘビー級王者のガチな格闘スキル。
独特のステップとフェイントで構えつつグイグイと前に出てくるタイソンは恐怖の塊そのものです。
下手に演出で飾らなくとも、彼が放つ一発一発のパンチから漂う、ずば抜けた素の「重さ」。
マジパンチが飛んでくるドニーさんも撮影中怖かっただろうな・・・。
・・・とドニーさんを気遣うように書きましたが、撮影中にはタイソンが左手人差し指を骨折しており、「誰も俺のことは心配してくれねえ・・・」としょげていたというエピソードが笑えます。
タイソンの体幹がアクション中にも反映されており、手技では押せないと判断したイップ・マンが下段攻撃や蹴り技を多用し始める戦況の変化も、観ていて思わず唸りますね~。
挑発されたら挑発で返すという、これまでとは打って変わった好戦的な姿勢を見せるイップ・マンも珍しい。
蹴り技や肘でのガードを多用してフランキーの猛襲を交わすイップ・マン、その度に的確にガードを崩してくるフランキーと、闘いの優劣が常に動き続ける様子はまさに烈火のごとく。
それでも3分の攻撃に耐えたら見逃すというルールをしっかり守ったフランキーはお利口さんですね。
ドニーさんVSマックス・チャン
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正当な詠春拳をめぐって、互いの掲げる誇りと武術をぶつけ合うイップ・マンとチョン・ティンチの交戦がラストを飾ります。
詠春拳VS詠春拳はこれまでにありそうでなかった対決で、異種格闘技戦もそそられますが、同門の手合わせというのもまた一興です。
3メートルものリーチの長さを持つ棒を巧みに扱う六点半棍戦、近距離で斬撃を高速に繰り出す二刀流の八斬刀戦、そして拳を突き出す拳法戦と、素手に留まらない詠春拳のあらゆる戦法を見ることができる貴重なシーンです。
マンサオやボンサオなど、詠春拳ならではのスタイリッシュな構えが圧巻ですが、中でも互いが突き出した両腕を交差させてワサワサと動かす、専門的に述べると相手の重心を制御して次の攻撃に派生させる組手のチーサオが取り入れられていることに感動しました。
管理人はブルース・リーが好きすぎて、大学のサークルに入らずに3年間外でジークンドーを習っていたこともあり、自分が実践した技術が劇中に登場するとリアリティが何倍にも増すことを実感しましたね。
ビルジーで目つぶしを食らったイップ・マンが、超至近距離から放つとどめのワンインチパンチは、派手さはないものの技のインパクトは十分。
まさに詠春拳をアクションのテーマとするシリーズの真髄とも言うべき対決は、カンフーマスター同士の対決という域を超えた聖戦、神々しい芸術の域に達しています。
ドニーさんとマックス・チャンを知り尽くしたウーピンの、アクション監督としての手腕がいかんなく発揮された賜物だと思います。
マックス・チャンは役作りのために減量したドニーさんと比べて元の戦がかなり細く、華奢な体から繰り出される
詠春拳は、しなやかさと鋭利な一撃がドニーさんの見せ方とは異なる特色です。
・イップ夫妻の時間が美しい
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イップ・マンの妻であるウィンシンにガンの宣告がされるというショッキングな展開。
作品の中盤までは、学校や地域を守るためにボランティアで尽くすイップ・マンに対し、家族の時間をないがしろにされているとウィンシンは不満げであり、1作目の時のように夫婦間に溝が生まれてしまっているのがもどかしいです。
ウィンシンが余命半年と宣告され、死への恐怖に泣き崩れながらイップ・マンに事実を伝えるシーンに心が痛みました。
妻との残された時間がわずかであること、これまで良き家族サービスができていなかったことを悟ったイップ・マンは、それまで以上に献身的にウィンシンに尽くすようになるのですが、このイップ夫妻が送る夫婦の時間が極めてドラマティック。
自分の誇りや心配事を全て忘れ、何に対しても妻との時間を優先していくのが、とても紳士的で健気です。
何気ない世間話や食事を楽しみ、一緒に映画を観たり社交ダンスを踊ったり。
一つ一つの出来事を大切に思い出に刻んでいくかのような夫婦の時間はまるで、日本の上質な朝ドラを観ているような気分になります。
管理人は、今までこんなにも「美しい」カンフー映画を観たことがありません。
それでもウィンシンの病態は悪化していき、唐突に「あなた(イップ・マン)と写真を撮りたい」と弱々しい声で呟くお願いに、耐えきれずに静かに泣き出すイップ・マン。
それまでほとんど涙など見せたことのない強い精神の持ち主である彼が、いよいよ残された時間の限界を感じて、目から溢れる涙を我慢できなくなる様子が見ていて辛かったです。
ドニーさんが涙を流すのは結構レアな演技なのですが、眉と唇の僅かな震わし方がリアルで、観ているこちらも涙を誘われます。
イップ・マンがムエタイファイターに襲われるシーンでは、狭いエレベーター内でウィンシンの鼻先を拳がかすめ、初めて彼女に危機が迫ります。
自らの詠春拳を使って直接的にすぐ後ろの彼女を守る機会はシリーズでは初めてで、イップ・マンの勇敢さとすんでのハラハラ加減が壮絶です。
ウィンシンを傷つけることなく、彼女が落とした薬をイップ・マンが拾うこの一連のシーンには、2人の夫婦の縁(えにし)の全てが込められているように感じます。
・木人椿が持ち合わせる意味
チョン・ティンチからの挑戦状を気にかけることなく、妻との時間を大切にするイップ・マンに対し、「自分の悔いも残さないでほしい」と願うウィンシン。
1作目では木人椿に「愛する妻」という貼り紙をして詠春拳を封印したイップ・マンが、本作では「木人椿を打つ音をまた聞きたい」と望む妻を想いながら、一発一発を噛みしめて、涙を堪えながら木人椿を打ち始めるその後ろ姿が切ない。
その時々に合わせて夫婦の絆を担う役割を木人に持たせるという、「詠春拳」を単にカンフーアクションだけでなくドラマにも組み込んでいて粋な演出だな〜と感心しました。
・チョン・ティンチの物語
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マックス・チャンが演じたチョン・ティンチも奥が深いキャラクターでした。
本作のラスボスのポジションですが、彼なりの信念に沿った行為を見せる非悪玉であり、憎めないキャラです。
詠春拳の使い手として「武術は優劣を決めるもの」という志を掲げいて、武術家らしい気鋭を慎ましくも大胆に披露していく、まさに本作の裏の主人公とも呼ぶべき新キャラクターです。
マックス・チャンの詠春拳アクションはもちろん申し分ありませんが、男手一つで息子を育てながら武館を開くことを夢見て、車夫として街を駆け抜けるチョン・ティンチを、どこか哀愁を漂わせながら表現する演技力にも注目です。
チョン・ティンチは作品のいちキャラクターとしてはもったいないほどの魅力的なキャラクターで、彼にハマった人には、チョン・ティンチのその後を描く『イップ・マン外伝 マスターZ』なるスピンオフ作品をプッシュ!
いつかこの作品も鑑定しますからね!
それにしても、清楚だった『ドラゴン×マッハ』の時とはまた違う、浅黒くて髭を生やしたダンディな色気に、また女性ファンが増えちゃうんじゃないですか?(笑
■日本がらみ
■鑑定結果
アクションの芸術的クオリティはそのままに、よりドラマチックな展開を見せる物語。
イップ・マンがなぜ闘うのか、その理由がより明確になっていることも、他のカンフー映画にはないシリーズ恒例の要素です。
となります!!
シリーズの過去2作品も鑑定していますので、合わせてどうぞ☆
それでは今回の鑑定はここまで。
またお会いしましょう!
よろしければシェアをしていただけると幸いです!↓↓
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