ネタバレ/感想/考察:映画『ドラゴン×マッハ!』の鑑定結果【運命の交差と因果応報の人間協奏曲アクション】

アクション
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Jing-Fu
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みなさんこんにちは! 管理人のJing-Fuです。

 

 

実写版『モンスターハンター』公開記念!

ミラ・ジョヴォヴィッチ演じるアルテミスの師匠となるハンター役のトニー・ジャーを勝手に応援企画第5弾!

 

 

 

今回鑑定をするのは『ドラゴン×マッハ!』です。

ドニー・イェンの代表作の1つ、『SPL 狼よ静かに死ね』の続編である本作は、タイのアクションスターであるトニー・ジャーが主演した、現代最高峰の香港ノワールアクション作品です。

それでは早速鑑定していきましょう!

■作品情報

・基本情報

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■原題:殺破狼2 /SPL 2: A Time for Consequences

■発掘国/制作年:中国/香港(2015)

■キャッチコピー

男たちの怒りの最終血戦が始まる!!

 

・監督、キャスト

■監督:ソイ・チェン

 

■主要キャスト

チャイ:トニー・ジャー

チーキット:ウー・ジン

所長:マックス・チャン

ホン・マンコン:ルイス・クー

チャン刑事:サイモン・ヤム

サー:アンダー・クンティラー・ヨードチャーン

コン:ロー・ワイコン

ホン・マンビウ:ジュン・クン

ナイフの男:チャン・チー

・あらすじ

香港で暗躍する臓器密売組織の摘発のために、潜入捜査官として組織の一員になった警官のチーキット(ウー・ジン)。しかしチーキットは信用と情報を得るために薬物に手を出しており、重度の薬物中毒に陥ってしまっていた。彼を潜入捜査官として選んだ、上司であり叔父のチャン刑事(サイモン・ヤム)の支えがありながらも、チーキットは禁断症状に苦しめられる毎日を過ごしていた。そんな中、あるミッションの最中に素性がばれてしまったチーキットは組織に拘束され、タイの刑務所へ送還されてしまう。組織のトップであるホン・マンコン(ルイス・クー)と繋がりのある所長(マックス・チャン)によって虚位の罪を被せられて暴れるチーキットだが、看守の一人であるチャイ(トニー・ジャー)に取り押さえられる。チャイは仕事に励みながらも、白血病の娘であるサー(アンダー・クンティラー・ヨードチャーン)のドナーを探すために躍起になっていたのだが・・・。

■ざくっと感想

Jing-Fu
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本作の鑑定結果は、、、

鑑定結果オリハルコン映画(☆10)!!

ドニー・イェン主演の名作『SPL 狼よ静かに死ね』の続編である本作ですが、ストーリーは繋がっておらず登場人物も前作とは関係もないので、単体の作品として楽しむことができます。しかし前作に出演していたキャストが全くの別役で再出演していたり、前作を思わせる演出があったり、前作の持っていたストーリー精神を継承していたりと、1作目を観ている人ならより楽しめるポイントがあちこちに散りばめられていたりもします。

『ドラゴン×マッハ!』という陳腐な邦題を目にして「なんだぁ、ただのドンパチ系C級アクションか」と立ち去ろうとしている人、ちょっと待ってください! 配給会社ツ〇ンが付けた能無しヘタレ邦題を搔い潜ると、驚くほどに上質なドラマと思わず唸る驚異のアクションが融合した究極のノワール物語が待っているので! 大人の事情か知らんが、邦題上で『SPL』シリーズであることを断ち切ってしまい(後年公開の3作目『PARADOX』は他配給さんによって『SPL 狼たちの処刑台』として公開されているのでなおさら解せん)、作品の醸し出す神聖さを潰してしまったツ〇ンを一生許すことができない。と、日本におけるプロモーションにおいては何一つ褒める点がないが、作品としては管理人のオールタイムベスト10に入る作品なので、そこは自信を持って強めにプッシュしていきますよ~。

主演は本作が香港映画デビューとなるムエタイアクションスターのトニー・ジャーと、前作で殺し屋役を演じ、ドニーさん相手に熾烈なナイフさばきを見せて大注目されることになったウー・ジン。同じく前作にも出演していたサイモン・ヤム、本作で遅咲きながらも俳優としての頭角を現したマックス・チャン、これまでのキャリアの中でも特に異質な悪役を演じるルイス・クーなど、アクションと演技の両面を満たす豪華すぎるキャストがストーリーを彩ります。

監督は、香港の名監督の一人であるリンゴ・ラムの助監督としてキャリアをスタートさせ、その後は『ドッグ・バイト・ドッグ』などで知られるソイ・チェン。また、前作の監督であったウィルソン・イップは、本作にも製作として携わっています。

 

以下、ネタバレありの感想と考察になります。

作品を未見の方は鑑賞後の閲覧をおすすめします!


 

 

 

 

 

 

 

 

■感想と考察

・前作の精神を継承する物語

トニー・ジャー初の香港映画出演!

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複数人の持つ運命の歯車が絡み合って流転する様子を多角的に映し出し、常に漂う暗く悲壮的なムードの中に僅かに細やかな幸せを照らすスタイル。ストーリーに繋がりがないとは言え、これぞ『SPL 狼よ静かに死ね』の続編と呼ぶに相応しい風格だ。刑事とマフィアの壮絶な裏社会戦争を描いたノワール劇だった前作に対し、人間という生物のあらゆるダークサイドな側面を重視させた本作のストーリーは、前作にも増して暗部を刺激する負のドラマを展開。「人の生死」について、様々な主張が侃侃諤諤的に飛び交うメッセージ性もあり、物語により一層の深みが生まれていました。

ちなみにタイトルの「SPL」とは「殺破狼(シャーポーラン=殺破狼)」の頭文字から来ているアルファベット。以前管理人がオーストラリア留学をしたときに親睦を深めた、エディ・ポンLOVEな台湾人の女の子がいて、彼女が英語で「これは中国の星占いで、人の人生に良くも悪くも急カーブを入れてくる3つの星のこと。この危なっかしい3文字の漢字を見ればその雰囲気が分かるでしょ?」と教えてくれたのが分かりやすくてとても印象的だった(ちなみに7年経っても未だに彼女とは交流が続けられていて嬉しい)。つまり作中の登場人物たちの生き様に激しい起伏をもたらすことを指してるんですね。

・キャラクターたち

前作以上に多彩な境遇の中で揺らめく人間関係が描かれる本作。相関図ではないですけど、各主要キャラクターの素性をまとめてました。

 

■チャイ(トニー・ジャー)

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強い正義感を持つタイ刑務所の看守。

白血病を患う娘のサーのドナーを必死に探している。

所長が臓器売買に加担していると知るも、娘のサーのために援助をされていることもあり、黙殺している状況。

刑務所勤めながら、今時「ポリス」という英単語を理解できないお茶目な一面もある。

 

■チーキット(ウー・ジン)

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臓器売買組織に潜入して捜査をしている警察。

組織に溶け込んで情報を得るために薬物に手を出してしまい、重度の薬物中毒で苦しむ毎日を過ごす。

白血病のサーのドナー適合者でもある。

よく右側頭部から床に落ちる。

演じるウー・ジンは、前作でナイフ使いの殺し屋ジェットを演じていた。

 

■所長(マックス・チャン)

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命の恩人であるホン・マンコンのために臓器密売事業に手を貸す、タイ刑務所の所長。

常に冷静沈着で高貴なスーツに身を固める紳士のようだが、感情を表に出すことのない冷酷な性格の持ち主。

内面や素性が一切の謎に包まれているが、ホン・マンコンに助けられなければ、カンボジアで犬のエサになっていたという壮絶な過去があるらしい。

戦闘中は脱いだ上着をちゃんと手すりに掛けておく律儀な一面も。

 

■チャン刑事(サイモン・ヤム)

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チーキットの叔父であり、上司でもある刑事。

部下からの信頼も厚く、臓器密売組織の摘発に躍起になるが、自身の命によって戦友捜査をしながら苦しんでいるチーキットを常に心配している。

「あんた(上司)には部下でも、俺には甥だ」というヒューマニティーな名言を残す。

 

■ホン・マンコン(ルイス・クー)

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玩具の貿易と偽りながら、裏で臓器密売組織を束ねる元締め。

重度の心臓の病を抱えており、臓器密売業の傍らで自身に適合する心臓を探している。

異様なまでに生に固執しており、自身の心臓に適合する実の弟の心臓をためらいもなく狙う。

 

■サー(アンダー・クンティラー・ヨードチャーン)

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チャイの一人娘。

幼いながらも白血病を患っており、医者からはドナーが見つからなければ余命半年と宣告されている。

病弱な体とは裏腹に明るい性格で、お気に入りのお守りはアイアンマンのマスク。

 

■コン(ロー・ワイコン)

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チャイの同僚の看守。

不遇な境遇のチャイとサーをプライベートでも労わる、好感度100%な気のいいおじさん。

演じるロー・ワイコンジャッキー・チェンの元ボディガードで、『酔拳2』で108マシンガンするラスボスです。

 

一通り見て分かるのが、ほとんどのキャラクターたちに割り振られた様々な血縁関係。前作では「父の日」がテーマの1つになっていて、善玉悪玉問わず色々な「父親」と家族劇が描かれていたけど、本作のドラマは親子関係に留まらない、さらに多岐に渡る血の繋がりを中心に渦巻いている。それらが『SPL』シリーズの精神である「運命の交差」と「因果応報」で絡み合うことで、まるで人間協奏曲を奏楽しているかのような濃密なドラマが実現。同ジャンルの域を超えたドラマの深さは、何故アカデミー賞作品賞にノミネートされなかったのかが不思議なくらいのA級クオリティだ。

幕開けからラストスパートに至るまで、BGMとして男女の甲高いコーラス楽曲が多く用いられており、まるで現代オペラを見ているかのような優美さと厳かな雰囲気は前作よりも格段にアップ。主要キャラたちの人間協奏曲に神々しい光と闇を与えて際立たせる重要な演出になってます。

 

・前作のオマージュ要素

監督のソイ・チェンは、前作『SPL 狼よ静かに死ね』に心酔するほどの大ファンであるらしく、「運命の交差」や「因果応報」といったテーマの継承だけでなく、劇中には前作のオマージュ的な演出や設定が散りばめられていることに気付いただろうか。

・敵のナイフ使いの無双シーン

・主人公とナイフ使いの対決

・前作のテーマ曲

・ガラスを突き破ってスローモーションで落下する

 

などなど、どれも前作を見ているファンなら思わずニンマリすることでしょう。

 

・新次元の格闘アクション

ジャーのヒジが通用しない?

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トニー・ジャーウー・ジンマックス・チャン。流石はこの業界を代表するメンツが大挙しているだけあって、アクションの壮絶さは言うまでもなく折り紙付き。

タイ出身のアクションスターであるジャーにとっては、本作が念願の香港映画主演デビュー作となる。それにしても香港映画、やはり世界を牽引する格闘アクションの本場であることは伊達じゃなく、ジャーの使い方が相当上手い。ヒジヒザを尖らせたムエタイコンバットの強調、彼の持ち味である跳躍力を活かすため、ワイヤーによって違和感のないラインを絶妙に守りつつ、自然体かつド派手にジャーを滞空させる見せ方。2年前に撮影されたタイ映画『マッハ!無限大』と比較すると、ジャーの活き活きとした動きの違いは一目瞭然。加齢によって昔ほどの超人能力がなくなっているとはいえ、ジャーのポテンシャルを腐らせず料理し、万全の態勢で食卓に出す演出力には舌鼓を打たずにはいられないのだ。劇中にはジャーが両ヒザを突き出してバスと正面衝突する、ジャーVSバス」という前代未聞のトンデモ対決が用意されており、なんとジャーが勝ってしまうという荒唐無稽さは必見。

ジャーと並ぶと、どうしてもアクション個性ではインパクト負けしてしまうウー・ジン。しかしそれ以前の作品と比べると、動きの軽快さよりもどっしりとした一撃の重さに重点が置かれていて、明らかに技の熟練度が増しているのが分かる。ウー・ジンがここまで荒々しくパワーに満ち溢れたカンフーアクションを体現できるようになったのギャップには驚かされた。トンファーや濡れたシャツを使いこなす武器戦もあり、格闘アクションの幅は広い。空港の襲撃シーンにおいて、ワイヤーを使っているだろうが、10メートル近くありそうなフェリーターミナル通路からノースタントで飛び降りているのがエラい。

裏方として長年活躍していたマックス・チャンが俳優として注目されたのは『グランド・マスター』でのひと時。そしてその後、彼の魅力の高さの決定打となったのが本作だ。流石は長年ユエン・ウーピンのもとで修業を積んでいるだけあって、ジャーウー・ジンに引けを取らない暴れっぷりを見せている。八極拳の手さばきやエクストリーム蹴りなど、本作での彼の格闘スタイルを一言で表せば「流麗」マックス・チャンは華奢な体格でもあるので直線的な動きがとても綺麗で、かつ紳士的な佇まいをする所長の役柄と相まって(というかアクションの動きも役作りの内の1つ)、芸術を観ているかのような美しいアクションムーブメントだった。

Jing-Fu
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色気を感じさせるセクシーな顔立ちもあり、観ている女子が堕ちないか心配ですネ。

 

・トニー・ジャーVSウー・ジン

ムエタイVSカンフーの初戦!

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冒頭で勃発する、夢の対戦カード。刑務所の取調室という極端に狭い空間であるがゆえに超至近距離での対決となっているが、コンパクトながらも勢いのあるアクションが見ものだ。接近戦であらゆる角度からヒジとヒザを立てまくるジャーの攻め方はインパクトが強く、彼がこういう戦法で闘うことを観客に伝えるためのデモンストレーション的な役割も持つシーンだ。

Jing-Fu
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状況から見て、一応はジャーの勝利として白黒つけているのが特徴。

 

・200人が入り乱れる長回し乱戦

わやくちゃな状況での長回しアクション。

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中盤の刑務所シーン、1台のスマホを巡って追いかけっこと殴り合いをするウー・ジンジャー。加えて混乱に乗じて騒ぎ出す大勢の受刑者たち、それを鎮圧するために出動する機動隊、そして逃げた商品(人身売買の被害者)を捕まえるために奮闘するマックス・チャン。実に総勢200人もの人間が入り乱れることになる、ハチャメチャに情報量の多い乱戦場面になっている。驚くべきはこのシーンが長回しで撮影されていることだ。 途中でマックス・チャンが現れるシーンで2回ほどカメラは切れるので完全なワンカットではないものの、それ以外は映像がシームレスに繋がっており、ウー・ジンジャーの交戦を中心にカメラが広い空間をグングン動いていくリアルタイムアクションには唖然とさせられた。

ただ、ウー・ジンジャーだけでなく、周囲にいる200人のモブたちの動きを統率してOKテイクを勝ち取るのは、それこそ『トム・ヤム・クン!』の4分長回し以上に至難の業であるはず。メイキングを見る限りやっぱりワンカットで通しているらしいんだけど、机タワーから落下する場面ではウー・ジンにワイヤーが付けられているだろうし、きっと疑似ワンカットなんだと思う。だからと言って評価が落ちるわけでもなく、どこで映像を切っているのかが分からないカメラワークと編集スキルには脱帽する。

Jing-Fu
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これは早すぎた『1917』としてもっと評価されるべきだ!

 

・ウー・ジンVSナイフ使い

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前作でウー・ジンが演じていた敵のナイフ使いのポジションを、本作ではチャン・チーが請け負っている。そんなナイフ使いにトンファーで挑むウー・ジンの対戦は、前作のドニーさんVSウー・ジンの立ち位置があべこべになっていて、ウー・ジンが前作で自らが演じた役柄と闘うことになるのはなんとも感慨深い。

オプションに頼らないシンプルな立ち回りながらも、アクション一つ一つの動きを外すことまで計算し尽くした結果、「2人はアドリブで闘っている」とまで噂が立ったほどの前作の神がかった名勝負。それに対して本作の立ち回りはカット割りが多めで構成されており、映像ギミックも凝っていてダイナミックな動きながらも、前作の「シンプルなインパクト」を超えられていない印象。

Jing-Fu
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アクション面では唯一、気持ち物足りないシーンでした。

 

・史上最高峰の2対1

なんてエキサイトした画だ。 

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物語のハイライトを飾る、ジャーウー・ジンVSマックス・チャン。現代のトップ前線で動ける3人の手合わせだからこそ、もうとにかく凄い。3人を限界までアグレッシブに動かさせる画の迫力、2対1の醍醐味を守るジャーウー・ジンの巧みなコンビネーション、2人の勢いに物怖じしないマックス・チャンの最強っぷり。どこをとっても凄すぎて、かっこいい言い回しのできない自分を呪いたいほど凄い。さらにこの交戦のBGMには、イタリアの著名な音楽家であるアントニオ・ヴィヴァルディの『夏』が使用されていて、これが驚くほどに画面内の動きと展開にマッチしているのよね。闘いを急き立てるせわしないリズム、3人の命を懸けた聖戦を描くかのような神々しさ。この神曲をチョイスしたスタッフに座布団一枚!

特に目を見張るのは、所長を演じるマックス・チャンの爆発的な強さ。闘いの最中に常に表情を崩すことなく2人の猛攻をさばき続ける一挙一動、柱に向かってジャイアントスイングされれば腹筋で避ける妙技、2人の同時上下段蹴りをかわす華麗な跳ね起き(しかもこの跳ね起きはワイヤー未使用のマジである)、まさに鬼人の如き苛烈な動き。かといって決して完全なる無敵ではなく、ジャーウー・ジンの連撃コンボに押されて一時劣勢になる姿勢もあり、一途になりすぎないリアリティある流れもミソだ。

 

あとはマックス・チャンジャーのあらゆる攻撃をスルスル避けてしまう流れも好きだ。猪突猛進の両ヒザボマイエをエクストリームイナバウアーでかわす瞬間のインパクトには目ん玉が飛び出そうになるほど衝撃的だったし、それ以降も、これまでの作品でどんな敵もKOしてきたジャーの必殺技全てを的確に受け止め、たやすく無効化し続けるチートっぷりにも目を見張った。

Jing-Fu
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それまで『ザ・レイド』が覇権を握っていた世界一の2対1構図を、本作は更に飛躍して飛び超えてしまったんです。

 

・更に洗練されたトニー・ジャーの演技力

『ワイルド・スピード スカイミッション』では悪役を、『バトルヒート』では恋人とのラブシーンを。タイを飛び出したジャーはアクションだけでなく、演技面への自分磨きにも精を出していた。そして本作ではキャリア史上初となる「父親」を演じることになり、さらに演技の幅を拡張することになっている。重い病の娘を献身的に思いやり、娘の前では気丈にふるまいながらも影では型を落として沈み込む陰の演技には、思わず涙を誘われてしまうでしょう。これだけ人情的な芝居ができるようであれば、今後体が動かなくなってアクションスターとして活躍ができなくなったとしても、役者として十分やっていけるんじゃないだろうか。

 

■考察

・「この世は奇跡でいっぱい」が指すのは?

劇中、自身のドナーも見つかることなくどんどん症状が重くなっていくサーが、持ち前の明るさも消え始めて沈み込むシーンがある。そこで父親のチャイは、手元にあった小さな植物の苗を手にしてこう言う。

「植物は、種の時は土の中で自分が今後どうなるかも分からず不安なまま。今のサーやパパと同じで怖いんだ。でも希望を捨てずに、種のように頑張って成長を続ければいつか必ず太陽が見える。この世は奇跡でいっぱいなんだよ。」

サーに向けられたチャイの言葉は彼女の心の支えとなり、終盤でサーが内なる恐怖に打ち勝ち、余命を通り越す「奇跡」を起こすきっかけとなっていました(詳しくは後述)。しかし、このセリフはサーというキャラクターの行動に影響を及ぼしただけのいち演出に留まらず、劇中の至る部分を間接的に代弁した言葉であるとも見受けられました。

本作に登場する主要人物たちは、前述した通りサーやチャイも含めてそのほとんどが何かしらの問題を抱えていたり、平坦な道を歩んでいない人生を送ってます。しかも主要人物だけでなく、サブキャラクターたちにもその影が落とされている。ホン・マンコンのボディーガードであるナイフ使いの男は、よく見れば耳に補聴器を付けているし、チーキットのスマホを拾って彼らの懸け橋となる漁業関係の男は発達障害者でした。他にもスラム街のシーンでは、物語上必然性がないにも関わらず義足の人物や車いすに座った人物が意図的に映し出されています。「この世は奇跡でいっぱい」と言うのは、「この世には色々な境遇の人がいて、中には決して幸せとは呼べない状況の人もいる。それでも皆が今この瞬間を生きていることが奇跡である」という、現実社会にも通ずる、決して綺麗ごとばかりではない世界の在り方を映し出した、本作の一種のテーマなんだと思います。

・「間違ったことは正しい時に起こっている」とは?

前作『SPL 狼よ静かに死ね』にも出演していたサイモン・ヤム。前作で彼が演じた刑事は「何が間違いで何が正しいのか」と自問的な言葉を発していました。それに対し本作で彼が演じたチャン刑事には「神様はいるよ。いつか振り返り、間違ったことは正しい時に起こっていたと気付くのさ」というセリフが用意されています。役は違えど、人の運命という高次元な問答を同じ役者の口にさせる演出が実に興味深い。

本作の「間違ったことは正しい時に起こっている」においては、起伏のある運命は最初から全てが決まっており、それを変えることはできない。しかし人として間違ったことを「間違いだ」と気付いて軌道修正をすることができた人間は、その後も生き続けることを神から許された=つまり何事も必然的であった「運命」を与えられていたことが分かる、を指してるんじゃないでしょうか。薬物中毒に陥りながらも克服に走ったチーキット、所長の悪の生業に対する黙殺をやめたチャイ。間違いを修正して逆境を生き延びた2人に対し、臓器売買を続けたホン・マンコンとそれに加担し続けた所長、人として間違ったままの2人は死にました。

前作でも、劇中で人として間違ったことをそのままにしてしまったキャラクターたちは、全員が死亡したり大切なものを奪われていましたが、本作では軌道修正ができた人間は救済された生存ルートを辿っています。

 

・何故サーは生き延びれたのか

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余命半年と宣告され、頼みのチーキットのドナーも3年以上使えないことが明らかになるサー。絶望的状況ながらも生きてみせると強く決心したサーに心を打たれますが、彼女は終盤、病院を抜け出して植物の苗を埋める場所を探しに出ます。これは上記の通りまだ種である植物を自分に例え、互いにいつか日の目を見るために生きようと決心し、植物を植えることによって心の支えにしようとする行動の表れ。ここでサーは、植物を植えている間にバンコクの街にはいないはずの狼に迫られることになる。もちろん「バンコクに狼はいない」というセリフは正しく、この狼はサーの内なる死への恐怖心が具現化された存在です。狼=死がじわじわと近づいてくる中、何故サーは死ななかったのか。それは父親のチャイの「どんな時も諦めてはいけない」という言葉を信じ、死ぬことへの恐怖心に打ち勝った結果でしょう。チャイの言う通り、これも奇跡の1つ。最後にはティーンネイジに育ったサーも映るので、彼女は恐怖を克服たことによって余命を飛び越え、結果としてチーキットのドナー提供を受けることができたんでしょうね。

 

・ホン・マンコンと所長が辿った運命の背景は?

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サーが死への恐怖心と闘っているのとほぼ同時刻、ホン・マンコンも迫る死に対する恐怖の中でもがいていました。けれども弟の心臓を奪う計画に綻びが生じた状況で追い詰められ、もう後がないところまで来てしまった彼の死へのスピードは急加速。「自分も死は怖い」と語っていたことが現実になり、ホン・マンコンは死への恐怖を乗り越えられなかったために死亡したんでしょう。前述した通り、間違いを犯したままの人間だったので神から見放されたとも取れますね。

そして所長。ホン・マンコンに「良いネクタイだな」と褒められた(素晴らしい伏線だ!)ネクタイが仇となり、死への道を開いてしまいます。何事もホン・マンコンと運命共同体であった所長は、ホン・マンコンが息を引き取るのとほぼ同時に息絶えていました。

悪いことをすれば報いを受ける。本作のテーマである「因果応報」の洗礼を綺麗に受けてしまった、悪役2人なのでした。

 

■日本がらみ

・今回、特に日本がらみの要素は見つかりませんでした。

 

■鑑定結果

Jing-Fu
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現代アジアのオールスターが集結し、極めて高い技術のアクションと、濃密で多重的な運命のドラマが合わさった空前絶後の名作。アホタレな邦題に騙されず、もっと多くの人の手に取ってほしい!

 

鑑定結果:オリハルコン映画(☆10)

 

となります!!

 

トニー・ジャーについて知りたい方はこちらの記事もどうぞ☆

 

それでは今回の鑑定はここまで。

またお会いしましょう!

 

よろしければシェアをしていただけると幸いです!↓↓

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