みなさんこんにちは! 管理人のJing-Fuです。
今回鑑定をするのは『ハードコア』です。
ほぼ全編が主人公の1人称視点で進行していくという、過去に類を見ない新次元スタイルが公開当時大きく話題になった、新感覚FPSアクションです。
それでは早速鑑定していきましょう。
目次
■作品情報
・基本情報
(C)2016 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
■原題:Хардкор/Hardcore Henry
■発掘国/制作年:ロシア/アメリカ(2015)
■キャッチコピー
・監督、キャスト
■監督:イリヤ・ナイシュラー
■主要キャスト
ヘンリー:セルゲイ・ヴェルヤフ、アンドレイ・デミエンティフ、イリヤ・ナイシュラー etc…
ジミー:シャールト・コプリー
エステル:ヘイリー・ベネット
エイカン:ダニーラ・コズロフスキー
ヘンリーの父:ティム・ロス
・あらすじ
ロシアの上空に漂う研究施設で目を覚ましたヘンリー。記憶を失っているヘンリーのもとに、エステル(ヘイリー・ベネット)という女性研究者が現れる。自分の妻を名乗る彼女によってヘンリーにサイボーグ手術が施され、欠損していた左腕と左足の修復が完了する。さらに失っていた声帯の修復に取り掛かろうとしたところ、突如として研究所にエイカン(ダニーラ・コズロフスキー)という謎の男が現れ、念力を使用してヘンリーを襲撃する。エステルと共に脱出ポットでからくも研究所を脱出したヘンリーだったが、地上で待ち構えていたエイカンの部隊によってエステルは拉致されてしまい、訳も分からないまま終われる身となってしまう・・・。
■ざくっと感想
本作の鑑定結果は、、、
多分人生で初めてロシアから発掘した映画ですね(アメリカとの合作作品だけど)。
ロシア発のアクション映画である本作は、驚くなかれ、なんとほぼ全編が主人公の1人称視点で構成されているという、同ジャンルどころか映画界にそれまで前例のなかったことを成し遂げた作品だ。『コールオブデューティー』や今巷で大人気の『APEX』などのFPS(ファーストパーソンシューティング)ゲームをプレイしているような感覚、と言えばイメージが湧くと思う。常に主人公ヘンリーの視点で物語が進行し、彼の見たことやったことがダイレクトに伝わってくる様子は、とにかく「没入感」の強さが他とは一線をくだす。
FPSゲームのように撃つ、殴るはもちろんのこと、飛ぶ、落ちる、パルクール、カーチェイスなど、ありとあらゆるアクション要素×ゴア描写が目白押しで夢を感じるが、ストーリーも含めると少々粗さが見える部分も否めない。それでもアクション映画の新境地に挑んだ意欲作としては十分に評価のしがいがある作品だ。
なお、ご察しの通り人間の視点で動く画面は想像以上に揺れるため、三半規管の弱い人は鑑賞する時には画面酔いに注意するように。
以下、ネタバレありの感想と考察になります。
作品を未見の方は鑑賞後の閲覧をおすすめします!
■感想と考察
・史上初の1人称視点映画
バイクに乗ってガトリング乱射!まさにFPSゲームの爽快感!
(C)2016 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
この世に映画は数あれど、ほぼ全編が主人公の1人称視点で映し出される作品は、現時点では本作以外に存在しない。近しいものとして『REC』や『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のようなPOV作品はいくつもあるけれど、あれらは劇中のカメラが映し出す主観映像だったのに対し、本作は完全に主人公の視点そのものになりきっていることが決定的な違いだ。たまに勘違いをしている人を見かけるけど、あくまでも「1人称視点」なのであって、1カットの長回しという手法は取られていない。むしろ画面の小刻みな切り替えは多めなので、そこにあまり期待はしないように。
話を戻しましょう。一応、それまでにもアクション映画の中で登場人物の視点に切り替わる演出は何回かあった。例えば『マッハ!無限大』ではトニー・ジャーが建物から建物に飛び移る時、『キングスマン』ではコリン・ファースが教会で大乱闘を繰り広げるシーンなどが挙げられる。しかしいずれのシーンもせいぜい数秒程度の長さでしかなかった。それを作品のほぼ全編で実行してしまおうというのだから、本作からはかなり挑戦的な姿勢と斬新なアイデア性が見て取れる。それは『トム・ヤム・クン!』がアクション映画の限界に挑んだ時の感動と似た興奮をもたらしてくれた。1人称視点の映画として重要視される「まるで自分が主人公になったかのような没入感」の完成度の高さは言うまでもない。常に危険と隣り合わせのスリリングアクションが「体感」できるだけあって、観ていて思わず体がのけぞりそうなほどの臨場感で、目の肥えたアクション映画ファンの心にもきっと刺さるはずだ。プロトタイプ的な作品としてちょっと荒い一面もあるけど、何より「新鮮さ」こそが本作最大のセールスポイントなのだから、主人公とのシンクロを存分に堪能しましょう。
映画史上初となる試みをみせた本作は、様々なアクション要素を1人称視点で見せることがいかに革新的であるかを証明するのと同時に、新鮮な驚きが薄れてきているアクション映画の新境地を開拓することに見事成功している。となると、今後のアクション映画の在り方についてもいろいろと妄想が膨らんでいくわけだ。大人気アクションスターの1人称視点に入り込んで、彼らのアクション動作をリアルに体感することのできる映画が製作されると考えれば心が躍らないだろうか。例えばドニーさん視点になりきって敵をフルボッコする映画なのもよし、イコ・ウワイス視点になってカランビットナイフ無双をする映画でもよし。ああ、あれこれムフフを考えていてもキリがない。そういう今後に前向きな可能性をもたらしてくれただけでも、本作の存在価値は大きい。
・殺りまくりの体感型アクション
パルクールシーン、危ねぇ、、、。
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顔面に叩き込まれる拳、首をズブズブ貫通するナイフ、眉間を突き抜ける銃弾。相手を傷つける様々な殺傷方法を、赤と黒のコントラストで覆わせながらスローモーションで流すオープニングクレジットが、乱暴ながらも一種の芸術作品のように映っていて妙な感じ。そんなオープニングがその後の物語を暗示していたかのように、劇中のゴア描写にはかなりの力が入っていた。
どれだけの残酷具合かを語る前に、まずは本作で披露されるアクションシーンについて言及したい。主人公のヘンリーは体のほとんどがサイボーグ化し、胸の内側に埋められたバッテリーが生命維持を担っている、いわば超人(右腕がサイボーグ化していることが、ラストの跳弾のきっかけを作る伏線にもなっている)。劇中でヘンリーがとにかくアグレッシブに動き回ることを納得させ、さらには1人称視点の迫力を高めるための設定でしょう。
相手を殴る蹴るの格闘術は当たり前。1人称視点に限られながらも、今ヘンリーと相手がどのような攻撃を繰り出し、どのように避けたのかが読み取りやすいのは感心した。
マシンガンやグレネードランチャーなどあらゆる銃を構えて撃ちまくり、手榴弾を投げる様はまさしくFPSゲームのプレイ画面そのものだ。中盤、建物の屋上からスナイパーライフルを扱って地上の敵を葬っていくシーンが特にFPSゲームらしさが強い。ジミーが蹴っ飛ばして宙に浮いた敵兵士をヘンリーが射殺するというコンボキルは屈指の名場面だ。
狙った対象を追うために、人々で溢れる街中を駆け抜けるパルクールシーンも臨場感はお墨付き。通行人を平気で巻き添えにしながら転げ落ちていくエスカレーターのシーンなんか危険すぎる。
他にも熾烈なカーチェイス中があったり、ぶら下がっていたヘリコプターから勢いよく落下したり、重工な戦車に襲われながらもなんとか撃退したりと、劇中で披露されるアクションの種類は枚挙にいとまがない。全体的に荒唐無稽というか、ちょっと色々詰め込みすぎているような気もするけど、製作陣の熱い「やりたい放題感」が顕著に表れているので嫌いではないかな。メイキング映像を観ていると、ヘンリー役は監督も含めて複数のスタントマンやスタッフが担当しているようで、演者がどでかいGO Proカメラを頭に取り付けて撮影をしている様子はなんとも滑稽だけど、撮影のコスパは高そう 笑
都度、ヘンリーは目の前の敵をありとあらゆる手段でオーバーキルしていく。飛び散る鮮血、破壊される肉体。殺傷描写のゴア表現は徹底しており、1人称ということもあってそのグロさは生々しく伝わってくる。好きな人にはたまらないだろうが、苦手な人は思わず顔をしかめそう。この容赦のない人体破壊描写には、ロシアというお国柄が出ているのだろうか。
・クセのあるキャラクターたち
高度を上げていくヘリコプターにぶら下がった結果、チンサム!
(C)2016 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
ヘンリーは声帯を損傷して喋れないという設定がつけられているので、劇中で一切喋らない様子がさらに没入感と感情移入を高めているのが素晴らしい。バイオレンスアクションの中にもちょっとしたユーモアある仕草を見せるなど、思いの外 好感の持てるキャラクターだった。
ラスボスとなるエイカン。彼は死体をサイボーグ化させて蘇らせ、最強のサイボーグ軍団を作り出そうとしている狂気の悪役。実は自分の妻であったエステルを、サイボーグ1人1人の妻として認識させる記憶を彼らに埋め込み、妻を取り戻すための「愛のパワー」を発揮させてサイボーグたちの士気と能力を上げようとする魂胆らしい。と、ここまで書いていても「愛は強し」しか伝わってこず、スマートな計画なのかアホなのかが分からん。
しかもエイカンはびっくりサプライズとして念力というパワーを持ち、手を使わずに物を操る能力を冒頭からいきなり披露してくれるのでぶったまげる。しかも最後までその念力については背景の説明なし。細かいことは気にしないのでロマンと留めるけど、着飾らない素朴なアクションを期待してた管理人にとっては、アクション中における念力のSFオプションははっきり言って蛇足。それでも視界が目まぐるしく動くとして、1人称視点の迫力は強まっているので可もなく不可もなくという感じ。
いずれにしても、狂気と美学をエッセンスしたような悪役としては今ひとつ印象が薄いキャラクターだった。
演技面での主役は、間違いなくジミーを演じたシャールト・コプリーだろう。ジミーは行く先々でヘンリーの前に現れ、エイカンへたどり着くために手を貸してくれるサポート的なキャラだ。しかし行く先々で現れるジミーはことごとく死亡する。だがすぐに新たなジミーが現れる、それも全く別の人格者になって。最初の内は「??」となるが、実はジミーは元エイカン配下の科学者で、エイカンのパワハラで脊髄を損傷した後、自らのクローンを量産してエイカンへの復讐を伺っていたのだ。
驚くのは登場するジミーのクローンの数。学者、パンクロッカー、軍曹、ヒッピーなどなど、なんと10人以上の別人格ジミーがストーリーを彩っているのだ。しかも1人が別の人格者を使い分けるのではなく、登場するたびに容姿や服装や武器も変わるので、都度そのインパクトに思わず圧倒される。1作品の中でこれだけ多数の人格を演じられることは、俳優にとっては腕の見せ所。シャルート・コプリーもその辺はかなり楽しんで演技をしているのが分かるので大変よろしい。
あと特定のキャラという訳ではないんだけど、気になったのはロシアの市民。ヘンリーが街中で倒れているたびに周囲にいた人々全員が駆け寄ってきて、ヘンリーを起こすのを手伝ったり救急に電話するなど、優しい人ばかり。ロシアって物凄く治安の悪いイメージがあったので面食らった。日本において、数年前に吉○ひとみが飲酒運転で歩行者2人をはねた際に、周りの人が誰一人被害者らに手を貸そうとしなかったニュース映像を観てやるせない気持ちになっていたのは記憶に新しいのでなおさらだ。でも劇中で「ロシアでは年間でボールが50個しか売れないのにバットが10万本売れる、ロシア人の娯楽が分かるだろ?」とエイカンが微笑んでいたりもするので、やっぱりロシアこえ~ってなるのよね笑 もちろん日本にも優しい人はいるし、これだけで決めつけるのは良くないね。
・ヘンリーの正体は?
Are you ready?
(C)2016 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
最後に、主人公ヘンリーの正体について考察をしてみます。
前述した通り、ヘンリーはエイカンのサイボーグ軍隊の1人として蘇ったに過ぎない存在だ。つまり、生前のヘンリーは元は人間で、何らかの理由で死亡した肉体をエイカンが入手したのだろう。
ヘンリーのルーツを探る手立てとして唯一の手掛かりが、ずばり彼の記憶だ。冒頭、そして終盤のヘンリーの記憶のフラッシュバックの中に、『トイストーリー』に出てくるよちよち歩きの双眼鏡のようなブリキのおもちゃ(ロボット?)の姿が映る。このおもちゃが悪ガキに破壊された後に画面が切り替わり、ティム・ロス演じる「ヘンリーの父親」が中腰でこちらの画面を見つめながら、負け犬のヘンリーに対しての叱責と鼓舞のメッセージを淡々と発言している。つまり彼はヘンリーの目を見て話しかけていることになる。管理人は劇場で本作を観た際に、ははーん、あの破壊されたおもちゃがヘンリーで、それを修理したヘンリーの父親がおもちゃヘンリーに向かって話しかけているのだろう、と漠然に考えていた。
しかし改めて本作を観直した結果、おもちゃだったヘンリーが人間になるのは普通に考えても辻褄が合わない。それに、ひょっとしたらおもちゃがヘンリーなのではなく、おもちゃの持ち主がヘンリー少年なのではないかという新たな憶測も生まれた。
管理人の中で挙げられた案は3つ。
冷静に考えると、当初考えていた①は現実的にはかなり無理がある設定だなあ。③もなんか味気ないし、普通に考えると②が正解にも思える。でもヘンリーの記憶のシーンでは、彼の少年期の姿が一切映らないのよね。ヘンリーの視点だとしても、手先や足も何も映らないのは不自然で、そこに人間ヘンリーの存在を感じることができない。それにおもちゃばかりがクローズアップされているのにも何かしら意味があるはず。だとするとやはり、、、
が正解で間違いないと思います。空中研究施設やサイコキネシスが存在する世界であれば、そんな不思議なことが起こってもおかしくはないでしょう、うん。
■日本がらみ
■鑑定結果
アクション映画としては少々まとまりに欠けるような気もするけど、史上初の1人称視点映画としてアクション映画の新たなるステップを踏み上がった意欲作です。アクション映画好きは「体感」すべきです。
となります!!
それでは今回の鑑定はここまで。
またお会いしましょう!
よろしければシェアをしていただけると幸いです!↓↓
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