ネタバレ/感想/考察:『イップ・マン 完結』の鑑定結果【有終の美を飾るイップ・マンとドニーさん】

アクション

(C)Mandarin Motion Pictures Limited, All rights reserved.

Jing-Fu
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みなさんこんにちは! 管理人のJing-Fuです。

 

今回鑑定をするのは『イップ・マン 完結』です。

本国での公開延期に伴う半年の日本公開延期、コロナ禍による日本公開2か月延期という長すぎる期間を経て、ようやく劇場で拝むことができました。

それでは、早速鑑定をしていきます。

■作品情報

・基本情報

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■原題:葉問4:完結篇 / Ip Man 4: The Finale

■発掘国/制作年:香港(2019)

■キャッチコピー

さよなら、イップ・マン

 

・監督、キャスト

■監督:ウィルソン・イップ

 

 

■主要キャスト

イップ・マン:ドニー・イェン

ワン・ゾンホア:ウー・ユエ

ルオナン:ヴァンダ・マーグラフ

ハートマン:ヴァネス・ウー

バートン:スコット・アドキンス

ブルース・リー:チャン・クウォックワン

コリン:クリス・コリンズ

ポー刑事:ケント・チェン

 

・あらすじ

1964年の香港。

妻ウィンシン(リン・ホン)を癌で亡くしてから5年が経った頃、イップ・マン(ドニー・イェン)自身も病院で癌を宣告されていた。

アメリカへ渡った弟子のブルース・リー(チャン・クウォックワン)から国際空手道大会への招待状が届くも、自分の命に限りがあることを悟ったイップ・マンは渡米を躊躇していた。

しかし息子のチン(ジム・リュー)が喧嘩沙汰で学校を退学になってしまったことから、イップ・マンは息子の将来を心配し始め、活発な彼に向いているであろうと、アメリカへ留学をさせることを決意する。

勉強よりも武術を習いたいというチンと、それに反対するイップ・マンの関係は冷ややかになっていた。

自ら留学先の学校を探すため、そしてブルースの大会を観に行くために、付き合いの長いポー刑事(ケント・チェン)にチンの世話を頼み、自らアメリカへと飛び立つイップ・マンだったが・・・。

■ざくっと感想

Jing-Fu
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本作の鑑定結果は、、、

ミスリル映画(☆9)!!

 

ドニー・イェンの大人気カンフーアクションシリーズ『イップ・マン』4作目にして完結編。

本作ではイップ・マンが初めて海外に赴くことになり、異国の地アメリカにて、閉鎖的な中国人社会と横暴なアメリカ人たちの差別社会に直面することになります。

病を宣告され、冷めてしまった息子との関係への憂いを背負いつつ、武術家、そして中国人の誇りを胸に差別に立ち向かっていくイップ・マン。

そんな彼が挑んでいく最後の闘いには、シリーズのファンであれば思わず胸が高鳴ります。

『SPL 狼たちの処刑台』組のウー・ユエクリス・コリンズなどといった実力派のアクション俳優をはじめ、『ニンジャ』『ドクターストレンジ』のアクション俳優スコット・アドキンスが参戦し、夢のドニーさんVSアドキンス戦が実現しました。

チャン・クウォックワン演じるブルース・リーのアクションシーンも、本作を観るうえで欠かせない見所となっています。

異国の地での新たな出会いと交流、残される息子との関係修復への願いを経て、人々の尊厳のために立ち上がるイップ・マンの物語がついに完結します。

 

過去シリーズ3作も鑑定しているので、合わせてどうぞ☆

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以下、ネタバレありの感想と考察になります。

作品を未見の方は鑑賞後の閲覧をおすすめします!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■感想と考察

・今回も実力派ぞろいのアクションスターたち

前作から引き続きアクション監督を務めるユエン・ウーピンのもと、今回も実力派のスター同士が1対1で対決するシーンに力が入っています。

逆に、シリーズ中でイップ・マンVS複数という格闘の構図が最も少ないのも事実で、イップ・マンが向かってくる大量の敵を次々と沈めていく無双による爽快感は薄めでした。

しかしこれには、本作のストーリーとリンクしている理由があるのです。

本作の冒頭でイップ・マンは、医師から癌であることを宣告されます。

さらには序盤で、ワンの娘ルオナンを助ける際に致命傷とも言うべき傷を左腕に負ってしまいます。

その後の各対決シーンでは、左腕の傷と癌に蝕まれていく体がハンデとなり、アクションの中により緊迫したドラマが生まれているのです。

アクションの爽快感よりも苦痛に耐えながら拳を突き出すイップ・マンに重きを置いたことにより、過去作にはなかった焦りや不安といった窮地のエッセンスが効いていて、これまで以上にハラハラが続くことは間違いないでしょう。

 

何故、彼は拳を振るうのか。

イップ・マンの闘う理由が明確に設定されているテーマにブレはなく、これまで彼が闘うバックには、常に大切に想う人や弱者が立っていました。

その分別は時と場所を問わず、本作では遠く離れた異国の地で虐げられる同胞たちの尊厳を背負い、不公正に対して道を切り開いていく勇姿は、頼もしくて凛々しく、そして信念を曲げない人間性の強さで溢れていました。

・ドニーさんVSウー・ユエ

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中華総会の会長ワンを演じるウー・ユエの披露した太極拳は驚くほど美しい動きをしていました。

『SPL 狼たちの処刑台』で初めて彼の演技とアクションを観てから、その表現力に惹かれていた管理人ですが、彼のカンフームーブメントを初めて観ることができて驚いています。

ジェット・リー意外に、映画の中で太極拳をあそこまで美しく見せることができる俳優がいたとは・・・。

調べてみると、なんとうウーユエドニーさんジェット・リーと同じくれっきとした武術家の経歴を持ち、10代の若さで中国武術の最高ランク「武英級」を獲得する偉業を遂げていた人物ではありませんか。

太極拳の特徴である、常に動き続ける腕の円運動の柔らかい軌道を美的に感じるのも納得です。

詠春拳のイップ・マンVS太極拳のワンの対決シーンでは、直線と円という、互いの腕の特徴的な動きが絶妙にマッチしていて、空間を上下左右に立体的に動いていることもあり、予想以上に見栄えするカンフーアクションシーンとなっていました。

異なる型同士の攻防の中で、互いの重心を奪い合うチーサオのような動きも挟まれていて、思わずおっ!っと見入ることに。

イップ・マンの腕の傷を見抜き、ワンの考案で互いに片腕を封じる縛りのアクションも見応えがありました。

詠春拳VS太極拳、ああ、その響きを聞いただけで胸が躍るのは管理人だけでしょうか・・・。

・ドニーさんVSクリス・コリンズ

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パワータイプの空手使いコリンとイップ・マンの対決では、1作目ぶりに詠春拳VS空手という異種格闘技戦が蘇ります。

細かい手技の連打よりも一撃のパワーを意識した空手の大きい動きに対して、イップ・マンの力のこもったチェーンパンチや突き刺すようなストンプ、そして相手の体重を利用する崩し方が印象的でした。

徐々にイップ・マンが押され始める場面が増えてくることによる緊張のスリルが生まれ始めています。

クリス・コリンズが演じるコリンがパワー型の空手使いという役柄もあってか、ドニーさんが見せる詠春拳の細かい手さばきとの相性が悪かったんでしょうか・・・。

『SPL 狼たちの処刑台』の時と同じく、クリス・コリンズは尺に触るような憎たらしい役をやらせたら右に出る者はいないほど、憎たらしい。

俳優の対戦カードとしては魅力的ですが、他の格闘シーンと比べると少々余韻が弱いような気もしました。

・ドニーさんVSスコット・アドキンス

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俳優の知名度でいえば、本作で最も期待がされているであろう対戦カードです。

ドニーさんアドキンスの共演と対決は、格闘アクション映画ファンにとってはフルコースのディナーのようなもの。

現代の香港とハリウッドのマーシャルアーツ映画のトップで担うアクションスターの激突は、控えめに言っても「最高」です。

アドキンスはバートンという凶暴な役柄を反映させた、スピーディで猛々しい空手アクションを見せつけています。

ウーピンアクション監督のもとでアドキンスがどんな動きを見せるのかが楽しみでしたが、やはりプロの香港アクション人の下で指導されたこともあり、下手なアドキンス主演作を観るよりは遥かに生き生きと動いていました。

彼の持ち味であるきりもみ回転や空中多段蹴りなどを取り入れていることで色が出ていましたし、それらを派手過ぎず堅実に描くことによって、画面上でドニーさんの静の動きを支配しないように迫力を出しているのが巧みです。

ですが、なんとなくドニーさんの動きに合わせに行けてないかのような違和感もほんの僅か(本当にほんの僅かです)に感じました。

アドキンスにとって初めての純香港映画であり、ジェット・リー『ダニーザドッグ』でも恐らくウーピンに指導をされていたとは思いますが、ひょっとするとアドキンスは香港アクションとは相性はあまりよくないんでしょうか・・・。

まあ、アドキンスにとってはドニーさん「殴られる」という名誉を受けただけでも嬉しかったんじゃないでしょうかね。

互いにマウントを取りつ取られつ、強攻撃を打ち込めば同等の反撃が叩き込まれる熾烈な闘いは、文字通り熱を帯びていました。

このシーンではイップ・マンのダメージが極限となり、イップ・マンの劣勢ぶりが過去最高に目立っていて、「イップ・マンが負けてしまうんではないか」と思わせる緊迫感が相当強い。

傷ついた左腕を集中的に狙われるのをカバーしたり、バートンの蹴りに歯を食いしばって悶えたり、ついには床に倒れ込むボロボロな姿を、ドニーさんが渾身の演技で痛々しく見せています。

イップ・マンシリーズの最後を飾る闘いとしては申し分のないクオリティではないかと。

・ブルース・リーアクションが秀逸

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チャン・クウォックワンが演じるブルース・リーにもアクションシーンが用意されており、イップ・マンVS複数人の爽快アクションがない代わりに、寄ってたかるアメリカ人たちを沈めていく爽快カンフーアクションを担っていました。

チャン・クウォックワンのジークンドーアクション中の動きが信じられないほどブルースに似ており、もはやモノマネや完コピを通り越しての絶大なるリスペクトに感動しました。

チャン・クウォックワンにとってはこれまで以上にプレッシャーが強かったんだろうと思いますが、連続3点蹴りやワンインチパンチ、そして華麗なヌンチャクさばきなど、観客が観たいと思っているブルースのアクションを見事に体現した彼には拍手を贈りたいです。

恐らくこのブルース・リー『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』に出ていれば、ブラピは秒殺で沈められていたでしょう。

ブルースのアクションの組み立てと再現を、『死亡の塔』でもアクション監督としてブルースに触れていたウーピンが構築しているというのも興味深いですね。

マーク・ストレンジが演じる空手家がシャッターにローリングソバットで一撃を加えて威嚇する際には、「ドアは蹴り返さないが俺は返すぞ」と返す、ブルースらしい武術哲学をこそっと盛り込んでいることも痺れました。

これは『燃えよドラゴン』ブルースのセリフにあった「板っきれは打ち返さない(Boards don’t hit back)」をもとにしており、「見せかけで満足せずに実際にかかってこい」という意味が込められているのですが、管理人が最も好きなブルースの哲学だったりします。

・アメリカ人の差別描写が強め

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外国人を徹底的に悪の存在に描いていることが本作の特徴の一つですが、本作も例外ではありません。

劇中でアメリカに住む中国人たちに対する、アメリカ人たちのエゴイズムな差別感情のや実力行使の色が濃い。

学校でのいじめの場面でも、「黄色いサル」という蔑みが使用されていたり、集団で抑え込んで女子の象徴である長髪を切り刻む様子が映し出されたりと、老若男女を問わない差別描写が生々しくてリアルでした。

黒人が同等に見られていない様子や、中国人キャラに対する差別発言のシーンで黒人の端役にクローズアップがされたりと、白人たちの他人種に対する差別感情が明らかに意識されている。

アメリカ軍一等軍曹のバートンも典型的な白人至上主義者であり、常に中国人や黒人に対して優位な態度を見せようと暴力や言葉攻めで攻め立てるやり方が嫌らしかったです。

 

劇中でブルースがアメリカ人にカンフーを教えていることが許せないと中華総会が憤りを見せていますが、現実世界でも実際に、ブルースはアメリカで自身のカンフーを人種問わず広めていることに対し、周囲の中国人たちからは異端児の目で見られて非難されていたそうです。

中国人は歴史上で常に支配される側であり、そんな彼らが外の敵に立ち向かうために内だけで中国武術を発展させてきたという経緯があるのですが、ブルース本人はこれを「古臭くて悪い戒律だ」と跳ね飛ばし、教えを乞う生徒には人種の壁を作らなかったという偉大なエピソードが残されています。

カンフーが世界中で愛されている現代社会を見ていても、ブルースの先見の明である功績が称えられているようで誇らしいです。

そんな実際問題としてに起こっていた中国人の閉鎖的な社会、ひいては同胞の中での差別と偏見も描かれているのです。

 

これ、アメリカ人、とりわけ白人の観客が観たらどう思うんだろうな~。

昨今、差別問題が深刻化しているアメリカ内が荒れているだけに、中国人の国民性が出ているとはいえ、ちょっとやりすぎなのでは?と思うほどのインパクトでした。

・イップ・マンの最期

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イップ・マンと息子であるチンの心が遠ざかっていることが、本作描かれるイップ家のテーマです。

前作で妻のウィンシンを亡くしたイップ・マンは、それまで子供の成長を見たり世話をすることができても、子供を大人に向けて育て、指導するということが上手くできなかったのだと思います。

言い方は悪いですが、1作目の時点で懸念されていたような、武術に熱心になりすぎて家庭を顧みなかったツケが少なからず回ってきたかのようにも感じます。

互いの心を理解できない親子の確執は、これまで以上に暗く、観ていて切なくなるドラマです。

アメリカから毎晩10時に香港のチンへと電話をかけ続けるも、一向に心を開いてくれないチンは、やるせなくもどかしい。

それでもイップ・マンが遠いアメリカへと自分のために旅立ち、チンに向けての想いを聞かされ、遠い距離の中で初めて気が付いた父親の命の期限への不安と、近い距離では整理ができなかった心を落ち着かせることでチンの心が変わっていく様子に思わず胸が熱くなります。

武術を習いたいというチンの願いを聞き入れ、自身の詠春拳を息子へと「継承」するシーンからは、関係の修復された親子の温かさ以上に、どことなく避けられないもの悲しさがいよいよ漂い始めます。

前作のウィンシンの時と同じく、イップ・マンのこれまでのシリーズのハイライトが走馬灯のように流れ、静かな葬儀のシーンで彼の物語が幕を閉じた瞬間は、ファンとして、感極まって涙を流してしまいました。

過去作に比べると、家族のテーマが少々急ぎ足で語られていて、ドラマチックさにやや欠けていたようにも受け取れます。

■日本がらみ

・「センセイ」という言葉
センセイ=先生は英語の外来語の一つで、空手を扱う作品ではよく目にする光景です。
アメリカの空手会でのセンセイは、インストラクターの肩書きのような意味をもっているらしく、教師や医者に対して敬う意味とは異なるそうです。

 

■鑑定結果

Jing-Fu
Jing-Fu

イップ・マンのシリーズが完結することと同時に、ドニーさんがカンフー映画からの卒業を宣言をすることになった本作。

その両方の意志を成すにふさわしい作品であり、シリーズが終わってしまうことは素直に残念ですが、有終の美を飾った素晴らしい質感でした。

 

鑑定結果:ミスリル映画(☆9)

 

となります!!

過去シリーズ3作も鑑定しているので、合わせてどうぞ☆

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それでは今回の鑑定はここまで。

またお会いしましょう!

 

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